JW33【神武東征編】EP33 丹敷浦の戦い

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 三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯に漂着した、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎3
 英虞崎楯ヶ崎

 解説は続くのであった。

 まず、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)がサノに語り掛けた。


 タギシ「父上? 大事なことを忘れておりませぬか?」


 サノ「大事なこと? 何じゃ?」


 タギシ「ここの地名について・・・。」


 サノ「何を言っておる。英虞崎の千畳敷と申したであろう。」


 タギシ「それは二千年後の呼び方にござりまするぞ。わしらが生きていた頃は?」


 サノ「あっ!」


 ここで、椎根津彦(しいねつひこ)(以下、
Seesaw)が解説に加わった。


 Seesaw
「さすがは、タギシ様! この地は当時、荒坂津(あらさか・のつ)と言われてたんやに。別名は丹敷浦(にしき・のうら)っちゃ。」×2


 サノ「津・・・ということは、港として使われていたということか?」


 Seesaw
「千畳敷は無理でしょうが、この二木島湾内は、港として適しちょりますな。」×2


 荒坂津(丹敷浦)

 サノ「そういうところには、その地を治める者がおり、部外者が来れば、敏感に察知するものなのじゃ。」


 Seesaw
「そうなんですか?」×2


 サノ「当たり前じゃ。我も高千穂にいる時は、不可思議な輩(やから)が来ては・・・。」


 謎の声「そうそう。不可思議な輩が来たら、武力で追っ払わないとねっ!」


 サノ「だ・・・誰じゃ?! 女の声? 何者ぞ!? 我は追っ払わず、話を聞く方であったぞ。」


 謎の女「聞いて臆(おく)せっ! 見て臆せっ! 我こそが、この地を治める丹敷戸畔(にしきとべ)や!」


 サノ「人の話を聞いておらぬ・・・。」


 ここで筋肉隆々の日臣命(ひのおみ・のみこと)が叫んだ。


 日臣(ひのおみ)「荒坂津は別名が丹敷浦(にしき・のうら)という。そこから付いた名前やなっ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「その通り! 侵入者めっ! その首、貰(もら)い受けるっ!」


 サノ「女ひとりで、我らを討ち取るつもりか? 正気の沙汰とは思えぬな。」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「否(いな)っ! 我一人に非(あら)ずっ! 野郎ども、戦じゃあぁぁ!」


 荒坂津のみなさん「戦じゃあぁぁぁ!!!」×多数


 日臣(ひのおみ)「ちょっと、待ってほしいっちゃ。誤解っちゃ! わしらはただ流されてきただけっちゃ!」


 この状況を見て、サノたちを救助した土地の者たちは逃げ去っていった。

 そして、大軍勢を前にして、タギシが吼える。


 タギシ「こうして我々は、丹敷戸畔を討ち取ったのじゃ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「説明で終わらせるの禁止やっ!」


 タギシ「なっ!? セリフ合わせでは、そうなっていたはず!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「心変わりや! あたいの夢は、舞台の上で、アドリブの花咲かせる女優になることや!」


 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が喚(わめ)き出した。


 天種子(あまのたね)「台本では一行で終わる話なんや! ホンマでっせ。」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「うるさい! 皆の者、かかれえぇぇ!!」


 サノ「その心意気、見事なり! 汝(いまし)をアドリブの女王と認めようぞ! では、アドリブついでに、汝自身の説明も頼もうぞ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「仕方ないなぁ。説明したるわ。」


 サノ「おお、さすがはアドリブの女神!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「あたいは、和歌山県の串本町(くしもとちょう)から三重県の大紀町(たいきちょう)錦(にしき)までの熊野灘(くまのなだ)沿岸を統治する豪族と考えられているんや。」


 丹敷戸畔の勢力域

 サノ「説明、御苦労であった! クランクアップの挨拶も頼む!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「もう少し活躍したかった。ニシキって呼んでほしかった!」


 荒坂津のみなさん「ニシキィィィ!!!」×多数


 こうして、サノ一行は丹敷戸畔を討ち取ったのであった。


 サノ「立派な女優・・・いやっ、立派な豪族であったな・・・。」


 謎の声「それで、終わったと思っているのか? サノよ。」


 サノ「えっ! つ・・・次は誰じゃ!? 男の声? 次は、アドリブ男優か?!」


 そこに現れたのは、謎の男でもなく、アドリブ男優でもなく、大きな熊であった。


 サノ「熊・・・。熊がしゃべっておるぞ・・・。」


 タギシ「父上、タコでもカメでもしゃべれること、お忘れか?」


 サノ「そ・・・そうか! さ・・・されど、大蛸(おおだこ)は良いとして、亀の一号と二号はしゃべれなかったはず・・・。」


 天種子(あまのたね)「そないなこと考えてる時やあらしませんっ!」


 サノ「わ・・・分かっておる。読者のためじゃ!」


 タギシ「父上、何やら、熊が語り出しましたぞ。」


 大きな熊「貴様が新しき国を作る器(うつわ)かどうか、ここで見極めさせてもらう!」


 サノ「しばし待たれよ。まず、名を名乗ってもらわねば困る。」


 大きな熊「我(われ)は熊野の神なり!」


 日臣(ひのおみ)「えっ?! 熊野の雷(かみなり)?!」


 熊野の神「ここでボケること、禁止する!」


 日臣(ひのおみ)「そんなこと、作者が許さないっちゃ。」


 作者「・・・・・・。」


 日臣(ひのおみ)「えっ!? どういうことっちゃ! 神様には従順なんかっ!」


 熊野の神「そろそろ、わしの毒気が効いてくる頃であろう。」


 サノ「そう言われてみれば、体が痺(しび)れてきたような・・・。」


 突然の熊襲来。

 一行はどうなってしまうのか。

 次回に続く。

JW32【神武東征編】EP32 熊野より愛を込めて

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嵐に遭遇した狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 兄たちの挽歌

 二人の兄も海に身を投げて死亡してしまう。

 もみくちゃにされる船団。

 そして・・・。


 サノ「というわけで、助かったようじゃな?」


 いきなりの主君の質問に小柄な剣根(つるぎね)が答える。


 剣根(つるぎね)「土地の者が船を漕(こ)ぎ、漂流する我々を助けたと伝承が残っているそうですぞ。」


 サノ「そ・・・そうか。かたじけない。それで、ここはどこじゃ?」


 その問いかけには、土地の者が答えた。


 土地の者「三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯やで。最先端には、高さ
70メートルの柱状節理(ちゅうじょうせつり)の岸壁、楯ケ崎(たてがさき)があるんや。」


 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎1
 英虞崎2
 英虞崎3
 英虞崎4

 サノ「柱状節理とは何じゃ?」


 土地の者「柱状節理っちゅうんわ、火山性の玄武岩(げんぶがん)とか安山岩(あんざんがん)に五角形やら六角形の柱のような割れ目が生じてですな、蜂の巣のような形になった岩石の柱が集合したもんですわ。」


 楯ヶ崎

 サノ「よく分からんが、読者には分かったようじゃな。ところで、真向いにも岬があるみたいじゃな。あれは?」


 その問いかけには、目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)が答えた。


 大久米(おおくめ)「真向いの岬は、牟婁崎(むろさき)っす。」


 牟婁崎1

 サノ「それでは、この向かい合った岬に、常世(とこよ)に行ってしまった兄上たちの神社を祀ろうぞ。」


 土地の者「いいね!」


 ここで椎根津彦(しいねつひこ)(以下、
Seesaw)が唐突に説明を始めた。


 Seesaw
「牟婁崎には室古神社(むろこじんじゃ)を建てたっちゃ。稲飯命(いなひ・のみこと)を祀ってるんやに。」×2


 室古神社1
 室古神社2
 室古神社鳥居
 室古神社拝殿

 そしてサノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)が追加説明を始めた。


 タギシ「向かい側の英虞崎には阿古師神社(あこしじんじゃ)を建てもうした。三毛入野命(みけいりの・のみこと)の伯父上を祀っておる。」

 阿古師神社1
 阿古師神社2
 阿古師神社鳥居
 阿古師神社拝殿
 英虞崎楯ヶ崎実写

 Seesaw「この二つの岬に抱かれるように存在するのが二木島湾(にぎしまわん)やに。」×2


 二木島湾
 英虞崎楯ヶ崎

 タギシ「この地域で、毎年十一月、盛大におこなわれていたのが二木島祭(にぎしままつり)じゃ。八丁櫓の関船二艘が両神社に渡船して儀式をおこなうのじゃ。」


 二木島祭1
 二木島祭2

 Seesaw
「白木綿(しろもめん)の胴巻きを締めた男衆による勇壮な船漕ぎ競争が見せ場っちゃ。漂流する我々を救った時の様子を再現したものやに。」×2


 サノ「タギシよ。盛大におこなわれていた・・・ということは、今は小規模ということか?」


 タギシ「父上、実は残念ながら、過疎が進んで
2010年(平成22年)を最後に休止しておるのです。」


 サノ「まこっちゃ(本当に)?!」


 タギシ「まこち(本当だよ)!」


 サノ「早く再開してほしいものじゃ。二人の兄上のためにも・・・。」


 タギシ「そうですな。」


 サノ「じゃっどん、ここが二人の兄上の終焉の地になるとは思わなんだ。常世(とこよ)に行ってしまわれるとは・・・。」


 そのとき、剣根の息子、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が解説を始めた。


 ヤマト「常世とは、あの世のことにござりまする。死者が行く理想郷で、黒潮(くろしお)が流れる熊野の海が、常世への入り口だという観念が古くから有りまする。修行者が海の果ての浄土に向かう『補陀落渡海(ふだらくとかい)』が平安時代からおこなわれておりました。」


 剣根(つるぎね)「おい、息子よ。浄土は仏教用語じゃぞ。補陀落も、観音菩薩(かんのんぼさつ)が住むという浄土の名前じゃ。我が君に分かるわけがないであろう!」


 ヤマト「い・・・いやっ、父上、これは読者向けの解説でして・・・。」


 サノ「民衆を浄土へ先導するために、修行者が渡海していたそうじゃな。黒潮に流され、ほぼ間違いなく帰られぬ。まさしく命がけ・・・。」


 剣根(つるぎね)「知っておりましたか・・・。」


 サノ「作者の受け売りじゃ。じゃっどん、仏教が来る前から、熊野は常世につながるという観念があったことは確かぞ。」


 タギシ「父上、それはどういうことです?」


 サノ「国産み神話で有名な伊弉冉神(いざなみのかみ)も熊野に葬られておるのじゃ。」


 大久米(おおくめ)「熊野の有馬村に葬ったと『日本書紀(にほんしょき)』の別伝に書かれてるっす。」


 土地の者「別伝って何です?」


 大久米(おおくめ)「いい質問すね。『日本書紀』は、本文のあとに別の伝承も書いてるんすよ。いわゆる、諸説有りって形で書かれてるんす。」


 土地の者「勉強になったわ。」


 大久米(おおくめ)「三重県熊野市にある、花の窟(いわや)という巨岩が、伊弉冉様の葬られた場所と伝わってます。」


 花の窟と楯ヶ崎
 花の窟2
 花の窟1

 タギシ「それより、父上? 大事なことを忘れておりませぬか?」


 サノ「大事なこと? 何じゃ?」


 タギシ「ここの地名について・・・。」


 サノ「何を言っておる。英虞崎の千畳敷と申したであろう。」


 タギシ「それは二千年後の呼び方にござりまするぞ。わしらが生きていた頃は?」


 サノ「あっ!」


 二千年後の呼び方とは・・・。

 次回に続く。

JW31【神武東征編】EP31 兄たちの挽歌

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 和歌山県(わかやまけん)新宮市(しんぐうし)の神倉山(かみくらさん)と言われている天磐盾(あまのいわたて)に登った、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 神倉山
 神倉山1

 登山の理由を巡り、一行が語り合っていると、地元の民が突然、現れた。


 地元の民「この山ですが・・・再登場するんで・・・よろしく。」


 サノ「だっ・・・誰じゃ!? 名を名乗れっ!」


 地元の民「不器用・・・ですから。」


 サノ「もしや、汝(いまし)も再登場するということか?」


 地元の民「作者から口止めというか・・・不器用・・・ですから。」


 サノ「その不器用という語り方を覚えておけば、良いのじゃな。」


 ここで、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと)がツッコミを入れてきた。


 稲飯(いなひ)「サノ、こいつが何者か気にならんのか?!」


 サノ「いずれ分かりましょうぞ。今、気にしても仕方のないことかと・・・。」


 ミケ「これが、二千年後で言う、ポジティブシンキングか・・・。」


 サノ「そういうことにしてくださりませ。では、次の地に向かおうぞ。出航の準備を致せ。」


 稲飯(いなひ)・ミケ「いやじゃあぁぁぁ!!」×2


 サノ「なして、兄上たちは船が、お嫌いなのです? 武具も食料も運べて便利ではありませぬか。」


 稲飯(いなひ)「何度も嵐に遭って来たんや! こんな恐ろしい乗り物はコリゴリなんや!」


 ミケ「稲飯の兄上の言う通りや。もう陸路でええやろ?」


 サノ「兄上、もう少しの辛抱にござる。堪忍してくださりませ。」


 結局、一行は船で次の目的地に向かったのであったが、二人の兄の嫌な予感は的中してしまう。

 嵐に遭遇したのである。


 兄たちの挽歌

 稲飯(いなひ)「嗚呼、どういうことや?! わしらの祖先は天津神(あまつかみ)なんやぞ! 母上は海神(かいじん)の娘やぞ! それなのに、なして、陸でも海でも、わしらを苦しめるんや?!」


サノ「あ・・・兄上?!」


 ここで、博学の天種子命(ああのたね・のみこと)が解説を始めた。


 天種子(あまのたね)「我が君たち四兄弟の母上は玉依姫(たまよりひめ)にあらしゃいます。『タマちゃん』と呼んでくだされ。その『タマちゃん』の父上が、海の神である大綿津見神(おおわたつみのかみ)にあらしゃいます。」


 サノ「このような時に、解説をしている場合かっ!?」


 天種子(あまのたね)「これが努めゆえ、お許しくだされ!」


稲飯(いなひ)「よし、こうなったら、我が身を捧げるじ! さらばじゃ、サノ! とおぅ!」


叫ぶや否や、稲飯命は剣を抜いて、荒れ狂う海に飛び込んでしまった。


サノ「あ・・・兄上ぇぇ!!」


 ミケ「稲飯の兄上の言う通りっちゃ。母も祖母も海神の娘なんや。それがどうや! なして、荒波を立てて、わしらを溺れさせるんやっ!」


 タギシ「お・・・伯父上?」


 天種子(あまのたね)「実は祖母の豊玉姫(とよたまひめ)も海神の娘にあらしゃいます。『トト姉ちゃん』と呼んでくだされ。その『トト姉ちゃん』と『タマちゃん』は姉妹にあらしゃいます。祖母が姉で、母が妹ということですな。」


 サノ「もう良い。このような時に・・・。」


 ミケ「よしっ! わしも人身御供になるっちゃ! とおっ!」


 まるで引き寄せられるかのように、三毛入野命も海に飛び込んでしまった。


 サノ「なっ!? ど・・・どういうことじゃ?」


 天種子(あまのたね)「ですから『トト姉ちゃん』から見た時、我が君たちは、孫でもあり、甥でもあるという、複雑な家庭環境の中で育ったということにあらしゃいます。」


 サノ「そっちの話ではない! なにゆえ、兄上たちが海に飛び込まれたのかということじゃ!」


 天種子(あまのたね)「そ・・・それは・・・稲飯様もミケ様も、ここで嵐に呑まれたんでしょうな。過酷な嵐だったということを、台本は、自ら身を投げた形で、表してるんやと思います。」


 サノ「それでは、本当は海難事故にあって・・・。」


 天種子(あまのたね)「そういうことでしょうな。」


 サノ「イツセの兄上に続いて、稲飯の兄上と、ミケの兄上まで・・・。これから、どうすれば良いのじゃ・・・。」


 タギシ「父上、しっかりしてくださりませ。父上は君主にあらせられまするぞ。」


 サノ「それは分かっておる。分かっておるが・・・。」


 タギシ「伯父上たちは、大綿津見神の御心を鎮めんがため、その身を犠牲にされたのです。」


 サノ「分かっておる。されど・・・。」


 そこへ、剣根(つるぎね)の息子、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が問いかけてきた。


 ヤマト「そ・・・それよりっ、この嵐はいつまで続くんでしょうか?!」


 タギシ「大綿津見神の御心次第じゃっ! 祈るほかあるまいっ!」


 突然の兄たちとの別れ。

 サノたちの船団は凄まじい嵐の中。

 一体、どうなってしまうのか? 

 次回に続く。

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