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 和歌山県(わかやまけん)新宮市(しんぐうし)の神倉山(かみくらさん)と言われている天磐盾(あまのいわたて)に登った、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 神倉山
 神倉山1

 登山の理由を巡り、一行が語り合っていると、地元の民が突然、現れた。


 地元の民「この山ですが・・・再登場するんで・・・よろしく。」


 サノ「だっ・・・誰じゃ!? 名を名乗れっ!」


 地元の民「不器用・・・ですから。」


 サノ「もしや、汝(いまし)も再登場するということか?」


 地元の民「作者から口止めというか・・・不器用・・・ですから。」


 サノ「その不器用という語り方を覚えておけば、良いのじゃな。」


 ここで、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと)がツッコミを入れてきた。


 稲飯(いなひ)「サノ、こいつが何者か気にならんのか?!」


 サノ「いずれ分かりましょうぞ。今、気にしても仕方のないことかと・・・。」


 ミケ「これが、二千年後で言う、ポジティブシンキングか・・・。」


 サノ「そういうことにしてくださりませ。では、次の地に向かおうぞ。出航の準備を致せ。」


 稲飯(いなひ)・ミケ「いやじゃあぁぁぁ!!」×2


 サノ「なして、兄上たちは船が、お嫌いなのです? 武具も食料も運べて便利ではありませぬか。」


 稲飯(いなひ)「何度も嵐に遭って来たんや! こんな恐ろしい乗り物はコリゴリなんや!」


 ミケ「稲飯の兄上の言う通りや。もう陸路でええやろ?」


 サノ「兄上、もう少しの辛抱にござる。堪忍してくださりませ。」


 結局、一行は船で次の目的地に向かったのであったが、二人の兄の嫌な予感は的中してしまう。

 嵐に遭遇したのである。


 兄たちの挽歌

 稲飯(いなひ)「嗚呼、どういうことや?! わしらの祖先は天津神(あまつかみ)なんやぞ! 母上は海神(かいじん)の娘やぞ! それなのに、なして、陸でも海でも、わしらを苦しめるんや?!」


サノ「あ・・・兄上?!」


 ここで、博学の天種子命(ああのたね・のみこと)が解説を始めた。


 天種子(あまのたね)「我が君たち四兄弟の母上は玉依姫(たまよりひめ)にあらしゃいます。『タマちゃん』と呼んでくだされ。その『タマちゃん』の父上が、海の神である大綿津見神(おおわたつみのかみ)にあらしゃいます。」


 サノ「このような時に、解説をしている場合かっ!?」


 天種子(あまのたね)「これが努めゆえ、お許しくだされ!」


稲飯(いなひ)「よし、こうなったら、我が身を捧げるじ! さらばじゃ、サノ! とおぅ!」


叫ぶや否や、稲飯命は剣を抜いて、荒れ狂う海に飛び込んでしまった。


サノ「あ・・・兄上ぇぇ!!」


 ミケ「稲飯の兄上の言う通りっちゃ。母も祖母も海神の娘なんや。それがどうや! なして、荒波を立てて、わしらを溺れさせるんやっ!」


 タギシ「お・・・伯父上?」


 天種子(あまのたね)「実は祖母の豊玉姫(とよたまひめ)も海神の娘にあらしゃいます。『トト姉ちゃん』と呼んでくだされ。その『トト姉ちゃん』と『タマちゃん』は姉妹にあらしゃいます。祖母が姉で、母が妹ということですな。」


 サノ「もう良い。このような時に・・・。」


 ミケ「よしっ! わしも人身御供になるっちゃ! とおっ!」


 まるで引き寄せられるかのように、三毛入野命も海に飛び込んでしまった。


 サノ「なっ!? ど・・・どういうことじゃ?」


 天種子(あまのたね)「ですから『トト姉ちゃん』から見た時、我が君たちは、孫でもあり、甥でもあるという、複雑な家庭環境の中で育ったということにあらしゃいます。」


 サノ「そっちの話ではない! なにゆえ、兄上たちが海に飛び込まれたのかということじゃ!」


 天種子(あまのたね)「そ・・・それは・・・稲飯様もミケ様も、ここで嵐に呑まれたんでしょうな。過酷な嵐だったということを、台本は、自ら身を投げた形で、表してるんやと思います。」


 サノ「それでは、本当は海難事故にあって・・・。」


 天種子(あまのたね)「そういうことでしょうな。」


 サノ「イツセの兄上に続いて、稲飯の兄上と、ミケの兄上まで・・・。これから、どうすれば良いのじゃ・・・。」


 タギシ「父上、しっかりしてくださりませ。父上は君主にあらせられまするぞ。」


 サノ「それは分かっておる。分かっておるが・・・。」


 タギシ「伯父上たちは、大綿津見神の御心を鎮めんがため、その身を犠牲にされたのです。」


 サノ「分かっておる。されど・・・。」


 そこへ、剣根(つるぎね)の息子、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が問いかけてきた。


 ヤマト「そ・・・それよりっ、この嵐はいつまで続くんでしょうか?!」


 タギシ「大綿津見神の御心次第じゃっ! 祈るほかあるまいっ!」


 突然の兄たちとの別れ。

 サノたちの船団は凄まじい嵐の中。

 一体、どうなってしまうのか? 

 次回に続く。