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 三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯に漂着した、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎3
 英虞崎楯ヶ崎

 解説は続くのであった。

 まず、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)がサノに語り掛けた。


 タギシ「父上? 大事なことを忘れておりませぬか?」


 サノ「大事なこと? 何じゃ?」


 タギシ「ここの地名について・・・。」


 サノ「何を言っておる。英虞崎の千畳敷と申したであろう。」


 タギシ「それは二千年後の呼び方にござりまするぞ。わしらが生きていた頃は?」


 サノ「あっ!」


 ここで、椎根津彦(しいねつひこ)(以下、
Seesaw)が解説に加わった。


 Seesaw
「さすがは、タギシ様! この地は当時、荒坂津(あらさか・のつ)と言われてたんやに。別名は丹敷浦(にしき・のうら)っちゃ。」×2


 サノ「津・・・ということは、港として使われていたということか?」


 Seesaw
「千畳敷は無理でしょうが、この二木島湾内は、港として適しちょりますな。」×2


 荒坂津(丹敷浦)

 サノ「そういうところには、その地を治める者がおり、部外者が来れば、敏感に察知するものなのじゃ。」


 Seesaw
「そうなんですか?」×2


 サノ「当たり前じゃ。我も高千穂にいる時は、不可思議な輩(やから)が来ては・・・。」


 謎の声「そうそう。不可思議な輩が来たら、武力で追っ払わないとねっ!」


 サノ「だ・・・誰じゃ?! 女の声? 何者ぞ!? 我は追っ払わず、話を聞く方であったぞ。」


 謎の女「聞いて臆(おく)せっ! 見て臆せっ! 我こそが、この地を治める丹敷戸畔(にしきとべ)や!」


 サノ「人の話を聞いておらぬ・・・。」


 ここで筋肉隆々の日臣命(ひのおみ・のみこと)が叫んだ。


 日臣(ひのおみ)「荒坂津は別名が丹敷浦(にしき・のうら)という。そこから付いた名前やなっ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「その通り! 侵入者めっ! その首、貰(もら)い受けるっ!」


 サノ「女ひとりで、我らを討ち取るつもりか? 正気の沙汰とは思えぬな。」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「否(いな)っ! 我一人に非(あら)ずっ! 野郎ども、戦じゃあぁぁ!」


 荒坂津のみなさん「戦じゃあぁぁぁ!!!」×多数


 日臣(ひのおみ)「ちょっと、待ってほしいっちゃ。誤解っちゃ! わしらはただ流されてきただけっちゃ!」


 この状況を見て、サノたちを救助した土地の者たちは逃げ去っていった。

 そして、大軍勢を前にして、タギシが吼える。


 タギシ「こうして我々は、丹敷戸畔を討ち取ったのじゃ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「説明で終わらせるの禁止やっ!」


 タギシ「なっ!? セリフ合わせでは、そうなっていたはず!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「心変わりや! あたいの夢は、舞台の上で、アドリブの花咲かせる女優になることや!」


 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が喚(わめ)き出した。


 天種子(あまのたね)「台本では一行で終わる話なんや! ホンマでっせ。」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「うるさい! 皆の者、かかれえぇぇ!!」


 サノ「その心意気、見事なり! 汝(いまし)をアドリブの女王と認めようぞ! では、アドリブついでに、汝自身の説明も頼もうぞ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「仕方ないなぁ。説明したるわ。」


 サノ「おお、さすがはアドリブの女神!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「あたいは、和歌山県の串本町(くしもとちょう)から三重県の大紀町(たいきちょう)錦(にしき)までの熊野灘(くまのなだ)沿岸を統治する豪族と考えられているんや。」


 丹敷戸畔の勢力域

 サノ「説明、御苦労であった! クランクアップの挨拶も頼む!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「もう少し活躍したかった。ニシキって呼んでほしかった!」


 荒坂津のみなさん「ニシキィィィ!!!」×多数


 こうして、サノ一行は丹敷戸畔を討ち取ったのであった。


 サノ「立派な女優・・・いやっ、立派な豪族であったな・・・。」


 謎の声「それで、終わったと思っているのか? サノよ。」


 サノ「えっ! つ・・・次は誰じゃ!? 男の声? 次は、アドリブ男優か?!」


 そこに現れたのは、謎の男でもなく、アドリブ男優でもなく、大きな熊であった。


 サノ「熊・・・。熊がしゃべっておるぞ・・・。」


 タギシ「父上、タコでもカメでもしゃべれること、お忘れか?」


 サノ「そ・・・そうか! さ・・・されど、大蛸(おおだこ)は良いとして、亀の一号と二号はしゃべれなかったはず・・・。」


 天種子(あまのたね)「そないなこと考えてる時やあらしませんっ!」


 サノ「わ・・・分かっておる。読者のためじゃ!」


 タギシ「父上、何やら、熊が語り出しましたぞ。」


 大きな熊「貴様が新しき国を作る器(うつわ)かどうか、ここで見極めさせてもらう!」


 サノ「しばし待たれよ。まず、名を名乗ってもらわねば困る。」


 大きな熊「我(われ)は熊野の神なり!」


 日臣(ひのおみ)「えっ?! 熊野の雷(かみなり)?!」


 熊野の神「ここでボケること、禁止する!」


 日臣(ひのおみ)「そんなこと、作者が許さないっちゃ。」


 作者「・・・・・・。」


 日臣(ひのおみ)「えっ!? どういうことっちゃ! 神様には従順なんかっ!」


 熊野の神「そろそろ、わしの毒気が効いてくる頃であろう。」


 サノ「そう言われてみれば、体が痺(しび)れてきたような・・・。」


 突然の熊襲来。

 一行はどうなってしまうのか。

 次回に続く。