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 三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯に漂着した、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎2
 英虞崎3

 丹敷浦(にしき・のうら)の豪族、丹敷戸畔(にしきとべ)を討ち取ったところで、突然、熊野の神と名乗る熊が襲撃してきた。

 荒坂津(丹敷浦)

 一行は熊野の神の毒気により、朦朧とするのであった。

ここで筋肉隆々の日臣命(ひのおみ・のみこと)が脂汗を掻きながら説明を始めた。


 日臣(ひのおみ)「ちょっと言わせてほしいっちゃ。みんな、フラフラで、倒れる者も出て来たっちゃ。力が湧いて来ないんやじ。もう、気持ちが悪くて、悪寒まで走る始末っちゃ。そしてついには、眠くなってきたっちゃ。」


 熊野の神「これくらいで、へこたれるのか? サノよ。」


 サノ「ううっ。悔しいが・・・。これでは・・・。」


 熊野の神「神の試練を乗り越えられないようでは、新しき国など作れぬぞっ!」


 すると、そのとき、一人の男が颯爽と駆けつけてきた。

 その男は一振りの剣を手にしている。


 頭椎大刀

 男「お・・・お久しぶりです。この剣、サノ様に献上します。」


 サノ「つ・・・剣? ど・・・どういうことじゃ?」


 男「剣の名前は・・・韴霊(ふつのみたま)。これを渡せと言われました。」


 サノ「ふ・・・韴霊?」


 男「これを持てば、助かると・・・。」


 サノ「わ・・・分かった。持ってみようぞ。」


 言われた通り、サノが剣を手にすると、一瞬にして眠気やら、痺れやら、悪寒やらが消え失せていった。

 周りの者たちも同様に、力を取り戻した。


 サノ「す・・・すごい剣じゃ。これは神宝ではないのか?」


 男「た・・・武甕雷神(たけみかづち・のかみ)の剣です。」


 サノ「おお、そのような霊験あらたかな剣とは・・・。」


 熊野の神「武甕雷が動いたか・・・。」


 サノ「どういうことじゃ!?」


 熊野の神「台本には書いておらぬが、説明してやろう。わしは試練を与えた。本当に新しき国が作れるのかどうか、疑っておったのじゃ。だが、それは杞憂(きゆう)であったようだ。天津神(あまつかみ)の力が汝(いまし)に与えられた。それ、すなわち、汝らが、それだけの苦難を乗り越えてきた証(あかし)ぞ。」


 サノ「乗り越えてきた証?」


 熊野の神「嵐を乗り越え、稲作を伝え、兄を失い、仲間を失い、それでも諦めず、ここまで来た。その苦労の結晶、ほとばしる情熱が天に届いたということよ。天津神を動かせるほどのものになったということじゃ。わしも安心したぞ。では、さらばじゃ。神の子よ。」


 こうして熊野の神は去っていった。

 謎の男を一人残して・・・。

 呆然と立ちすくむ男。

 訝(いぶか)し気な表情の一行。

 一体、この男は何者なのか?


 男「お・・・お久しぶりです。」


 サノ「前にも会ったことがあるようじゃな?」


 男「神邑(みわ・のむら)の天磐盾(あまのいわたて)でお会いしました。」


 狭野1
 狭野だ
 神倉山
 神倉山2
 天磐盾

 サノ「あっ! あの地元の民か?!」


 男「印象が薄くて、すみません。不器用・・・ですから。」


 サノ「それより、汝(いまし)は何者ぞ?」


 男「そ・・・それがしは高倉下(たかくらじ)と申しまする。」


 サノ「高倉下か。本当に助かったぞ。かたじけない。」


 高倉下(たかくらじ)「ただ剣を届けただけ・・・不器用・・・ですから。」


 サノ「じゃっどん、どうしてここが分かったのじゃ?」


 高倉下(たかくらじ)「武甕雷神(たけみかづちのかみ)が、それがしの夢に現れ、剣をサノ様に渡せと・・・。」


 サノ「夢の中に・・・。」


 すると、いきなり雷鳴が轟き、雲間から武甕雷神(たけみかづち・のかみ)(以下、タケミー)が出現した。


 タケミカヅチ

 日臣(ひのおみ)「ちょっと! 台本にはない展開やじ。」


 タケミー「仕方なかろう。高倉下が不器用すぎて、説明が進まんのじゃ。わしが代わって説明をしてやる。」


 サノ一行「ははぁぁぁ。」×11


 タケミー「天照大神(あまてらすおおみかみ)は心配しておった。汝(いまし)のことが気になって仕方がないらしい。まあ、孫みたいなものだからな。」


 サノ「孫と申しますか、玄孫(やしゃご)の子、来孫(らいそん)に当たりまする。」


 タケミー「華麗にスルーさせてもらおう。そして、こう仰った。」


 すると突然、日輪が眩(まばゆ)く輝き始め、天照大神(あまてらすおおみかみ)(以下、アマ)が現れた。


 天照大神

 アマ「葦原中国(あしはらのなかつくに)は、いまなお、さやげりなり。」


 サノ「おお、天照様。お初にお目にかかりまする。狭野にござりまする。」


 アマ「分かっておる。皆、頑張っておるようじゃな。」


 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が喰いついてきた。


 天種子(あまのたね)「ところで、さやげりなり・・・とは、どういう意味にあらしゃいますか?」


 アマ「騒がしいようだ・・・という意味じゃ。そして、タケミーに言ったのじゃ。もう一度、汝(いまし)が征伐して参れとな・・・。」


 それを聞いて、小柄な剣根(つるぎね)が疑問の声を上げた。


 剣根(つるぎね)「もう一度とは、どういうことにござりまするか?」


 アマ「出雲(いずも)の大国主神(おおくにぬし・のかみ)に国を譲(ゆず)ってもらった時、タケミーを派遣したのじゃが、そのときも、いろいろ抵抗勢力がおったのじゃ。」


 タケミー「まあ、そんな昔のことは・・・。それより、今回の話ですぞ。」


 アマ「そうであったな。そこで、タケミーは、こう言ったのじゃ。」


 神々の説明は続く。

 タケミーは何と言ったのであろうか。

 次回に続く。