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 熊野で出会った、饒速日命(にぎはやひ・のみこと)の息子、高倉下(たかくらじ)が、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行に説明を続けていた。


 高倉下(たかくらじ)「あの・・・天磐盾(あまのいわたて)の岩についても、説明がありまして・・・。」


 サノ「では、そちらの解説も頼もうぞ。」


 高倉下(たかくらじ)「岩の名前は『ゴトビキ岩』と言いまする。ゴトビキとは、地元の方言で、ヒキガエルという意味にござりまする。」


 神倉山1
 神倉山2
 ゴトビキ岩
 天磐盾

 サノ「形がヒキガエルに似ておるからか?」


 高倉下(たかくらじ)「よく分かりませぬ。すみませぬ。不器用・・・ですから。」


 サノ「気にせずとも良い。じゃっどん、分かったこともある。岩を祀るという原始信仰から、神々が生まれ、御先祖様と融合していったのじゃ。熊野が大和に組み込まれていく中で、地元の神の名前が、しっかり残っていったのであろうな・・・。」


 高倉下(たかくらじ)「そ・・・そうかもしれませぬな。では、説明も終わったので、私は帰りまする。」


 サノ「御尊父(ごそんぷ)や弟君(おとうとぎみ)に何か、伝えることはないか?」


 高倉下(たかくらじ)「私は・・・熊野に骨を埋(うず)めます・・・と・・・。」


 サノ「あい分かったっ。」


 こうして、高倉下は、言うだけ言って、帰っていったのであった。


 高倉下(たかくらじ)と別れた狭野尊一行は、熊野から中(なか)つ国(くに)を目指し、山中へと足を踏み入れた。

 山中へ

 しかし、山深い土地柄である。

 通れそうな道も見つからず、進むことも退くこともできない状況となってしまった。

 要するに迷子である。


 迷子
 今回の舞台

 サノ「迷子にあらず! 捜索中と言い直せ!」


 ここで、マロ眉の天種子命(あまのたね・のみこと)がツッコミを入れてきた。


 天種子(あまのたね)「いいえ、迷子にあらしゃいます。この期(ご)に及んで、妙な自尊心は捨てるべきやと思いまするが、如何(いか)に?」


 サノ「み・・・認めねばならぬのか・・・。」


 天種子(あまのたね)「どう致します? 戻りますか?」


 サノ「よし、我に策がある。」


 天種子(あまのたね)「それは如何なる?」


 サノ「寝るのじゃ!」


 天種子(あまのたね)「はっ?」


 自暴自棄になったのか、ふて寝したくなったのか、一行は野宿することとなった。

 と言っても、何日も彷徨(さまよ)っているので、もう何度目か・・・という野宿である。


 しかし、今日の野宿は、いつもと違った。

 サノが夢を見たのである。

 夢の中には、あの大御所、天照大神(あまてらすおおみかみ)(以下、アマ)が登場。

 天照大神

 こんなことを言ったとか、言わなかったとか・・・。


 アマ「サノっ! 何をへこたれておるのじゃ。」


 サノ「へこたれてはおりませぬ。それより、夢に出て来たわけをお聞かせくださりませ。」


 アマ「汝(いまし)は今、迷子じゃな?」


 サノ「うっ・・・。これは悪夢にござりまするか?」


 アマ「悪夢ではないぞ。これは吉夢じゃ。そういうことで、先導者を遣わすぞ。その名も、八咫烏(やたがらす)じゃ! 喜べ!」


 サノ「ヤタガラス?」


 アマ「期待しておるのじゃぞ。ではな!」


 サノは、そこで夢から覚めた。

 半信半疑でいると、上空から何かが飛来し、サノの目の前に降り立った。

 何がやって来たのか・・・。

 言うまでもないが、念のために言っておこうと思う。

 八咫烏である。


 八咫烏

 八咫烏(やたがらす)「オッス! オラ、八咫烏っ! いっちょ、やってみっか!」


 サノ「さ・・・三本足の大きなカラス? どこかで見たような?」


 八咫烏(やたがらす)「言うんじゃねえ。言ったら、ぶっ殺すぞ!」


 サノ「あっ! エピソード
14で登場した、ノーギャラと申して、フリップで説明してきたカラスではないか!」


 八咫烏(やたがらす)「言わなくてもいいじゃねえか。」


 サノ「汝(いまし)が先導者なのか?」


 八咫烏(やたがらす)「そうだっ。よろしくなっ。」


 サノ「瑞夢(ずいむ)の通りである。これこそ天照大神の徳が成せる業(わざ)よ。天津日嗣(あまつひつぎ)の大業(たいぎょう)を助けてくださらんとの思(おぼ)し召(め)しであろうか。」


 八咫烏(やたがらす)「急に真面目に台詞言っちまってよお。棒読みに聞こえっぞ!」


 サノ「棒読み・・・ですから。」


 するとそこに、日臣命(ひのおみ・のみこと)がやって来た。


 日臣(ひのおみ)「先導者の三本足っちゃ! やったじ!」


 サノ「驚かぬのか!? なして(なぜ)知っておるのじゃ?」


 日臣(ひのおみ)「紙面の都合っちゃ。というわけで、おいが三本足の導きに従って、道を切り開いていくっちゃ。」


 サノ「なっ? そのようなこと、真に能(あた)うのか?」


 日臣(ひのおみ)「荒事(あらごと)担当、軍事の天才、日臣様とは、おいのことやじっ。」


 サノ「初耳じゃが、まあ良い。汝(いまし)に任せよう。頼んだぞ! 日臣!」


 三本足「ちょっ、オラのあだ名、三本足になってねえか?」


 サノ「そういうことじゃ! 行けい! 三本足よっ!」


 三本足「はいはい。行きゃあいいんだろ。いっちょ、やってみっかぁ。」


 八咫烏の先導で、サノたちは、山中から脱することができるのであろうか。

 次回に続く。