JW12【神武東征編】EP12 出雲と鬼と
芸北地方(げいほくちほう:広島県北部)を訪れた狭野尊(さの・のみこと) (以下、サノ)たち天孫一行。
その理由は、出雲との接触および交渉にあったと推理してみた。
今回は、出雲の君主、伊佐我(いさが)も交えて、更に推論を進めていきたいと思う。
というわけで、三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと) (以下、ミケ)が、出雲の君主、伊佐我(いさが)に解説の協力を依頼した。
ミケ「では、芸北地方についての説明を御願いするっちゃ。」
伊佐我(いさが)「うむ。語ろうぞ。まず、広島県の北部だが、前回、三毛入野(みけいりの)殿が申していた通り、当時は、我(わ)が出雲の勢力圏にあった可能性がある。」
それを聞いて、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が伊佐我に尋ねた。
天種子(あまのたね)「伊佐我様も、そう仰られまするが、何か根拠があらしゃいますか?」
伊佐我(いさが)「根拠ならあるぞ。埃ノ宮神社(えのみやじんじゃ)から南へ2キロほど行ったところに、稲山墳丘墓(いなやま・ふんきゅうぼ)があるんだに。」
ここで、サノの妃、興世姫(おきよひめ)と目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)、更に小柄な剣根(つるぎね)も解説に加わった。
剣根(つるぎね)「2013年(平成25年)に見つかった、弥生時代末期の遺跡ですな。確か、墓の形式が、四隅突出型墳丘墓(よすみとっしゅつがたふんきゅうぼ)でしたな?」
伊佐我(いさが)「そげだ(そうだ)。『四隅~』は山陰地方や北陸地方などの日本海側に見られる墓の形式で、出雲の勢力圏ないし文化圏を特徴づけるものではないかとの説もあるんだに。」
興世(おきよ)「ちなみに、埃ノ宮神社(えのみやじんじゃ)は、サノ様の行宮(あんぐう:仮の御所)の埃宮(え・のみや)と言われておりまする。」
剣根(つるぎね)「補足説明、痛み入りまする。」
大久米(おおくめ)「じゃあ、伊佐我様やミケ様が言う通り、芸北地方一帯が、出雲の勢力圏だった可能性は高いってことか。」
伊佐我(いさが)「出雲と直接的なつながりがあるかどうかは、今後の調査次第だが、埃ノ宮神社(えのみやじんじゃ)の一帯が、日本海文化圏に組み込まれていたのは間違いなかろう。」
天種子(あまのたね)「出雲と交渉をする上でも、格好の地にあらしゃいますな。」
興世(おきよ)「ちなみに、『日本書紀』の記述によれば、埃宮(え・のみや)に到着したのは12月27日とのことで、まだ冬の時期にござりまする。伊佐我様は、これをどう考えられまするか?」
伊佐我(いさが)「雪道を進んでまで、山深い地に来ておるんだけん(だから)、それ相応の理由があったと見るべきであろうな。」
剣根(つるぎね)「前回紹介した、庄原市(しょうばらし)の今宮神社(いまみやじんじゃ)の伝承が原因でしょうな。」
大久米(おおくめ)「物資の協力を依頼したという伝承っすね?」
剣根(つるぎね)「そうじゃ。」
伊佐我(いさが)「ちなみに、庄原市は埃ノ宮神社のある安芸高田市よりも北に位置し、出雲にも近い。ここが物資の集積場であった可能性は高いな。」
ミケ「また、交渉そのものをおこなった場所の可能性もあるっちゃ。交渉を通じて、出雲から鉄や食料などの援助を求めたのかもしれん。もしかすると、人員の要請もしていたかもしれないっちゃ。」
伊佐我(いさが)「だが、交渉が順調に進むとは限らんぞ。交渉成立まで、いろいろといざこざがあったようだに。」
サノ「いざこざ・・・。」
大久米(おおくめ)「どういうことっすか?」
伊佐我(いさが)「ここに興味深い話がある。広島県庄原市(しょうばらし)の高野町南(たかのちょう・みなみ)という地域に、大宮八幡宮(おおみやはちまんぐう)という神社があるんだが、そこには、サノ殿たちによる鬼退治の話が伝わっちょるんだに。」
ミケ「鬼城山(きじょうさん?おにしろやま?)の埴土丸(はにつちまる)という鬼神の伝説っちゃね?」
伊佐我(いさが)「そげだ(そうだ)。埴土丸が数多の賊を養い、近隣住民に害を及ぼしていたという伝説だっちゃ。この地域は、一つ山を越えれば、出雲国(いずも・のくに)に入る。もしかすると、埴土丸という人物は、出雲の家来だったのかもしれん。」
大久米(おおくめ)「出雲の家来だったかどうかは、伊佐我様が、よく御存知でしょ?」
伊佐我(いさが)「知っちょるが、人々からロマンを奪うわけにはいかん。」
剣根(つるぎね)「さりながら、もし出雲の家来ということなら、援助を拒絶した出雲勢が、この地に攻め込んできた物語かもしれぬということですな?」
伊佐我(いさが)「そげだ(そうだ)。そげな考え方もできると思うんだに。」
興世(おきよ)「では、鬼退治の内容に触れておきましょう。サノ様は、剛風彦(たけかぜひこ)を先陣として、鬼を退治したと伝わっておりまする。」
興世姫の説明を聞いて、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と剣根(つるぎね)の息子、夜麻都俾(やまとべ) (以下、ヤマト)が過敏に反応した。
稲飯(いなひ)「ちょっと待ってくんない(ください)。剛風彦(たけかぜひこ)って誰ね? 初耳やじ。」
ヤマト「先陣を任せたとなれば、超重要人物になりまするぞ!」
興世(おきよ)「作者も剛風彦について、いろいろ調べたそうですが、よく分からなかったみたいですね。その後の物語にも登場しないので、現地の人間ではないかと予想されておりまする。」
ミケ「地元の案内役のような立場だったとも考えられるっちゃ。ちなみに、埴土丸と剛風彦の読み方も分からなかったみたいやじ。あくまで、作者の勝手な推測による読み方っちゃ。」
稲飯(いなひ)「こうなったら、直接、本人に聞けばいいっちゃ。真実はどうなんや?」
そこで、剛風彦が急遽、召喚された。
剛風彦「お初にお目にかかりまする。それがしが、剛風彦(たけかぜひこ)にござる。」
サノ「うむ。解説よろしく頼む。」
剛風彦「・・・と申されましても、それがしも分かりませぬ。もしかすると、それがしも出雲系の人物だったのかもしれませぬ。」
ミケ「汝(いまし)も出雲系とは、どういうことっちゃ?」
剛風彦「鬼退治の話は、出雲が、サノ様に協力するか否か、賛成派と反対派に分かれて争ったことを示唆する物語かもしれぬということです。」
伊佐我(いさが)「そげだな。そう推測した時、剛風彦と埴土丸は、わしの家来で、賛成派と反対派の代表人物と見ることもできるな。」
天種子(あまのたね)「本当のところはどうです? 家来にあらしゃいますか?」
伊佐我(いさが)「人々からロマンを奪うことになるけん(から)、それは言えん。」
剛風彦「我(わ)が君(きみ)・・・と呼んでいいのか、悪いのか・・・。」
興世(おきよ)「ちなみに、鬼退治の結果、私たち天孫一行は、多くの矢、剣、鉾(ほこ)を手に入れたと記載されておりまする。多くの矢、剣、鉾・・・これらの武具は、出雲からの援助を表しているのではないでしょうか。」
するとそこに、一人の怪しい人物が現れた。
怪しい人物「いい線いっちょるかもしれんし、いっちょらんかもしれんな。」
剛風彦「あっ!? 埴土丸(はにつちまる)! よくも抜け抜けと・・・。」
埴土丸「紙面の都合だに! お互い、名前の読み方が分からんモン同士、大いに暴れようぞ!」
伊佐我(いさが)「名前の読み方? そげなことを気にしちょるんか!」
埴土丸「そ・・・そげなこと? 伊佐我様には分からんでしょうが、おらには大事なことなんだに。出雲の家来か、鬼なのか・・・そんなことより、名前だっちゃ!」
ヤマト「とにかく、剛風彦殿を先陣に、我々は埴土丸殿を討伐するんですな。」
サノ「じゃが(そうだ)。剛風彦よ。この鉾(ほこ)で、奴を倒すのじゃ。」
剛風彦「御意! この鉾(ほこ)をくらえぃ!」
埴土丸「グフッ・・・。今回限りの登場にしては、ちゃんと爪痕を残せたんじゃなかろうか・・・ガクッ。」
伊佐我(いさが)「剛風彦、見事であるぞ!」
剛風彦「ありがたき御言葉。家門の誉れにござりまする。」
サノ「話の流れで、剛風彦が出雲の家来のような扱いとなっておりまするな。」
伊佐我(いさが)「まあまあ、そうかもしれんし、そうでないかもしれんということで・・・。」
サノ「とにもかくにも、出雲の合力(ごうりき)をいただき、心強く思っておりまする。」
伊佐我(いさが)「我らは共に天孫じゃ。力を合わせるは、至極当然のこと・・・。」
ここで長兄の彦五瀬命(ひこいつせ・のみこと) (以下、イツセ)も伊佐我に声をかけた。
イツセ「伊佐我殿、我らとの交渉に臨んでくださり、真に痛み入りまする。」
伊佐我(いさが)「新しき国造り・・・出雲の地にて楽しみにしておりまするぞ。」
イツセ「また会いたいですな。」
伊佐我(いさが)「わしもじゃ。」
サノ「伊佐我殿も御達者で・・・。」
その他の天孫一行「御達者でぇぇ。」×12
こうして、サノたちは、出雲の協力を得ることに成功した。
なお、大宮八幡宮には、退治の時に使った鉾が、神宝として保存されている。
つづく