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2022年03月

JW34【神武東征編】EP34 進撃の巨熊

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 三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯に漂着した、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎2
 英虞崎3

 丹敷浦(にしき・のうら)の豪族、丹敷戸畔(にしきとべ)を討ち取ったところで、突然、熊野の神と名乗る熊が襲撃してきた。

 荒坂津(丹敷浦)

 一行は熊野の神の毒気により、朦朧とするのであった。

ここで筋肉隆々の日臣命(ひのおみ・のみこと)が脂汗を掻きながら説明を始めた。


 日臣(ひのおみ)「ちょっと言わせてほしいっちゃ。みんな、フラフラで、倒れる者も出て来たっちゃ。力が湧いて来ないんやじ。もう、気持ちが悪くて、悪寒まで走る始末っちゃ。そしてついには、眠くなってきたっちゃ。」


 熊野の神「これくらいで、へこたれるのか? サノよ。」


 サノ「ううっ。悔しいが・・・。これでは・・・。」


 熊野の神「神の試練を乗り越えられないようでは、新しき国など作れぬぞっ!」


 すると、そのとき、一人の男が颯爽と駆けつけてきた。

 その男は一振りの剣を手にしている。


 頭椎大刀

 男「お・・・お久しぶりです。この剣、サノ様に献上します。」


 サノ「つ・・・剣? ど・・・どういうことじゃ?」


 男「剣の名前は・・・韴霊(ふつのみたま)。これを渡せと言われました。」


 サノ「ふ・・・韴霊?」


 男「これを持てば、助かると・・・。」


 サノ「わ・・・分かった。持ってみようぞ。」


 言われた通り、サノが剣を手にすると、一瞬にして眠気やら、痺れやら、悪寒やらが消え失せていった。

 周りの者たちも同様に、力を取り戻した。


 サノ「す・・・すごい剣じゃ。これは神宝ではないのか?」


 男「た・・・武甕雷神(たけみかづち・のかみ)の剣です。」


 サノ「おお、そのような霊験あらたかな剣とは・・・。」


 熊野の神「武甕雷が動いたか・・・。」


 サノ「どういうことじゃ!?」


 熊野の神「台本には書いておらぬが、説明してやろう。わしは試練を与えた。本当に新しき国が作れるのかどうか、疑っておったのじゃ。だが、それは杞憂(きゆう)であったようだ。天津神(あまつかみ)の力が汝(いまし)に与えられた。それ、すなわち、汝らが、それだけの苦難を乗り越えてきた証(あかし)ぞ。」


 サノ「乗り越えてきた証?」


 熊野の神「嵐を乗り越え、稲作を伝え、兄を失い、仲間を失い、それでも諦めず、ここまで来た。その苦労の結晶、ほとばしる情熱が天に届いたということよ。天津神を動かせるほどのものになったということじゃ。わしも安心したぞ。では、さらばじゃ。神の子よ。」


 こうして熊野の神は去っていった。

 謎の男を一人残して・・・。

 呆然と立ちすくむ男。

 訝(いぶか)し気な表情の一行。

 一体、この男は何者なのか?


 男「お・・・お久しぶりです。」


 サノ「前にも会ったことがあるようじゃな?」


 男「神邑(みわ・のむら)の天磐盾(あまのいわたて)でお会いしました。」


 狭野1
 狭野だ
 神倉山
 神倉山2
 天磐盾

 サノ「あっ! あの地元の民か?!」


 男「印象が薄くて、すみません。不器用・・・ですから。」


 サノ「それより、汝(いまし)は何者ぞ?」


 男「そ・・・それがしは高倉下(たかくらじ)と申しまする。」


 サノ「高倉下か。本当に助かったぞ。かたじけない。」


 高倉下(たかくらじ)「ただ剣を届けただけ・・・不器用・・・ですから。」


 サノ「じゃっどん、どうしてここが分かったのじゃ?」


 高倉下(たかくらじ)「武甕雷神(たけみかづちのかみ)が、それがしの夢に現れ、剣をサノ様に渡せと・・・。」


 サノ「夢の中に・・・。」


 すると、いきなり雷鳴が轟き、雲間から武甕雷神(たけみかづち・のかみ)(以下、タケミー)が出現した。


 タケミカヅチ

 日臣(ひのおみ)「ちょっと! 台本にはない展開やじ。」


 タケミー「仕方なかろう。高倉下が不器用すぎて、説明が進まんのじゃ。わしが代わって説明をしてやる。」


 サノ一行「ははぁぁぁ。」×11


 タケミー「天照大神(あまてらすおおみかみ)は心配しておった。汝(いまし)のことが気になって仕方がないらしい。まあ、孫みたいなものだからな。」


 サノ「孫と申しますか、玄孫(やしゃご)の子、来孫(らいそん)に当たりまする。」


 タケミー「華麗にスルーさせてもらおう。そして、こう仰った。」


 すると突然、日輪が眩(まばゆ)く輝き始め、天照大神(あまてらすおおみかみ)(以下、アマ)が現れた。


 天照大神

 アマ「葦原中国(あしはらのなかつくに)は、いまなお、さやげりなり。」


 サノ「おお、天照様。お初にお目にかかりまする。狭野にござりまする。」


 アマ「分かっておる。皆、頑張っておるようじゃな。」


 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が喰いついてきた。


 天種子(あまのたね)「ところで、さやげりなり・・・とは、どういう意味にあらしゃいますか?」


 アマ「騒がしいようだ・・・という意味じゃ。そして、タケミーに言ったのじゃ。もう一度、汝(いまし)が征伐して参れとな・・・。」


 それを聞いて、小柄な剣根(つるぎね)が疑問の声を上げた。


 剣根(つるぎね)「もう一度とは、どういうことにござりまするか?」


 アマ「出雲(いずも)の大国主神(おおくにぬし・のかみ)に国を譲(ゆず)ってもらった時、タケミーを派遣したのじゃが、そのときも、いろいろ抵抗勢力がおったのじゃ。」


 タケミー「まあ、そんな昔のことは・・・。それより、今回の話ですぞ。」


 アマ「そうであったな。そこで、タケミーは、こう言ったのじゃ。」


 神々の説明は続く。

 タケミーは何と言ったのであろうか。

 次回に続く。

JW33【神武東征編】EP33 丹敷浦の戦い

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 三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯に漂着した、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎3
 英虞崎楯ヶ崎

 解説は続くのであった。

 まず、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)がサノに語り掛けた。


 タギシ「父上? 大事なことを忘れておりませぬか?」


 サノ「大事なこと? 何じゃ?」


 タギシ「ここの地名について・・・。」


 サノ「何を言っておる。英虞崎の千畳敷と申したであろう。」


 タギシ「それは二千年後の呼び方にござりまするぞ。わしらが生きていた頃は?」


 サノ「あっ!」


 ここで、椎根津彦(しいねつひこ)(以下、
Seesaw)が解説に加わった。


 Seesaw
「さすがは、タギシ様! この地は当時、荒坂津(あらさか・のつ)と言われてたんやに。別名は丹敷浦(にしき・のうら)っちゃ。」×2


 サノ「津・・・ということは、港として使われていたということか?」


 Seesaw
「千畳敷は無理でしょうが、この二木島湾内は、港として適しちょりますな。」×2


 荒坂津(丹敷浦)

 サノ「そういうところには、その地を治める者がおり、部外者が来れば、敏感に察知するものなのじゃ。」


 Seesaw
「そうなんですか?」×2


 サノ「当たり前じゃ。我も高千穂にいる時は、不可思議な輩(やから)が来ては・・・。」


 謎の声「そうそう。不可思議な輩が来たら、武力で追っ払わないとねっ!」


 サノ「だ・・・誰じゃ?! 女の声? 何者ぞ!? 我は追っ払わず、話を聞く方であったぞ。」


 謎の女「聞いて臆(おく)せっ! 見て臆せっ! 我こそが、この地を治める丹敷戸畔(にしきとべ)や!」


 サノ「人の話を聞いておらぬ・・・。」


 ここで筋肉隆々の日臣命(ひのおみ・のみこと)が叫んだ。


 日臣(ひのおみ)「荒坂津は別名が丹敷浦(にしき・のうら)という。そこから付いた名前やなっ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「その通り! 侵入者めっ! その首、貰(もら)い受けるっ!」


 サノ「女ひとりで、我らを討ち取るつもりか? 正気の沙汰とは思えぬな。」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「否(いな)っ! 我一人に非(あら)ずっ! 野郎ども、戦じゃあぁぁ!」


 荒坂津のみなさん「戦じゃあぁぁぁ!!!」×多数


 日臣(ひのおみ)「ちょっと、待ってほしいっちゃ。誤解っちゃ! わしらはただ流されてきただけっちゃ!」


 この状況を見て、サノたちを救助した土地の者たちは逃げ去っていった。

 そして、大軍勢を前にして、タギシが吼える。


 タギシ「こうして我々は、丹敷戸畔を討ち取ったのじゃ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「説明で終わらせるの禁止やっ!」


 タギシ「なっ!? セリフ合わせでは、そうなっていたはず!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「心変わりや! あたいの夢は、舞台の上で、アドリブの花咲かせる女優になることや!」


 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が喚(わめ)き出した。


 天種子(あまのたね)「台本では一行で終わる話なんや! ホンマでっせ。」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「うるさい! 皆の者、かかれえぇぇ!!」


 サノ「その心意気、見事なり! 汝(いまし)をアドリブの女王と認めようぞ! では、アドリブついでに、汝自身の説明も頼もうぞ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「仕方ないなぁ。説明したるわ。」


 サノ「おお、さすがはアドリブの女神!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「あたいは、和歌山県の串本町(くしもとちょう)から三重県の大紀町(たいきちょう)錦(にしき)までの熊野灘(くまのなだ)沿岸を統治する豪族と考えられているんや。」


 丹敷戸畔の勢力域

 サノ「説明、御苦労であった! クランクアップの挨拶も頼む!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「もう少し活躍したかった。ニシキって呼んでほしかった!」


 荒坂津のみなさん「ニシキィィィ!!!」×多数


 こうして、サノ一行は丹敷戸畔を討ち取ったのであった。


 サノ「立派な女優・・・いやっ、立派な豪族であったな・・・。」


 謎の声「それで、終わったと思っているのか? サノよ。」


 サノ「えっ! つ・・・次は誰じゃ!? 男の声? 次は、アドリブ男優か?!」


 そこに現れたのは、謎の男でもなく、アドリブ男優でもなく、大きな熊であった。


 サノ「熊・・・。熊がしゃべっておるぞ・・・。」


 タギシ「父上、タコでもカメでもしゃべれること、お忘れか?」


 サノ「そ・・・そうか! さ・・・されど、大蛸(おおだこ)は良いとして、亀の一号と二号はしゃべれなかったはず・・・。」


 天種子(あまのたね)「そないなこと考えてる時やあらしませんっ!」


 サノ「わ・・・分かっておる。読者のためじゃ!」


 タギシ「父上、何やら、熊が語り出しましたぞ。」


 大きな熊「貴様が新しき国を作る器(うつわ)かどうか、ここで見極めさせてもらう!」


 サノ「しばし待たれよ。まず、名を名乗ってもらわねば困る。」


 大きな熊「我(われ)は熊野の神なり!」


 日臣(ひのおみ)「えっ?! 熊野の雷(かみなり)?!」


 熊野の神「ここでボケること、禁止する!」


 日臣(ひのおみ)「そんなこと、作者が許さないっちゃ。」


 作者「・・・・・・。」


 日臣(ひのおみ)「えっ!? どういうことっちゃ! 神様には従順なんかっ!」


 熊野の神「そろそろ、わしの毒気が効いてくる頃であろう。」


 サノ「そう言われてみれば、体が痺(しび)れてきたような・・・。」


 突然の熊襲来。

 一行はどうなってしまうのか。

 次回に続く。

JW32【神武東征編】EP32 熊野より愛を込めて

カテゴリ:

嵐に遭遇した狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 兄たちの挽歌

 二人の兄も海に身を投げて死亡してしまう。

 もみくちゃにされる船団。

 そして・・・。


 サノ「というわけで、助かったようじゃな?」


 いきなりの主君の質問に小柄な剣根(つるぎね)が答える。


 剣根(つるぎね)「土地の者が船を漕(こ)ぎ、漂流する我々を助けたと伝承が残っているそうですぞ。」


 サノ「そ・・・そうか。かたじけない。それで、ここはどこじゃ?」


 その問いかけには、土地の者が答えた。


 土地の者「三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯やで。最先端には、高さ
70メートルの柱状節理(ちゅうじょうせつり)の岸壁、楯ケ崎(たてがさき)があるんや。」


 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎1
 英虞崎2
 英虞崎3
 英虞崎4

 サノ「柱状節理とは何じゃ?」


 土地の者「柱状節理っちゅうんわ、火山性の玄武岩(げんぶがん)とか安山岩(あんざんがん)に五角形やら六角形の柱のような割れ目が生じてですな、蜂の巣のような形になった岩石の柱が集合したもんですわ。」


 楯ヶ崎

 サノ「よく分からんが、読者には分かったようじゃな。ところで、真向いにも岬があるみたいじゃな。あれは?」


 その問いかけには、目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)が答えた。


 大久米(おおくめ)「真向いの岬は、牟婁崎(むろさき)っす。」


 牟婁崎1

 サノ「それでは、この向かい合った岬に、常世(とこよ)に行ってしまった兄上たちの神社を祀ろうぞ。」


 土地の者「いいね!」


 ここで椎根津彦(しいねつひこ)(以下、
Seesaw)が唐突に説明を始めた。


 Seesaw
「牟婁崎には室古神社(むろこじんじゃ)を建てたっちゃ。稲飯命(いなひ・のみこと)を祀ってるんやに。」×2


 室古神社1
 室古神社2
 室古神社鳥居
 室古神社拝殿

 そしてサノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)が追加説明を始めた。


 タギシ「向かい側の英虞崎には阿古師神社(あこしじんじゃ)を建てもうした。三毛入野命(みけいりの・のみこと)の伯父上を祀っておる。」

 阿古師神社1
 阿古師神社2
 阿古師神社鳥居
 阿古師神社拝殿
 英虞崎楯ヶ崎実写

 Seesaw「この二つの岬に抱かれるように存在するのが二木島湾(にぎしまわん)やに。」×2


 二木島湾
 英虞崎楯ヶ崎

 タギシ「この地域で、毎年十一月、盛大におこなわれていたのが二木島祭(にぎしままつり)じゃ。八丁櫓の関船二艘が両神社に渡船して儀式をおこなうのじゃ。」


 二木島祭1
 二木島祭2

 Seesaw
「白木綿(しろもめん)の胴巻きを締めた男衆による勇壮な船漕ぎ競争が見せ場っちゃ。漂流する我々を救った時の様子を再現したものやに。」×2


 サノ「タギシよ。盛大におこなわれていた・・・ということは、今は小規模ということか?」


 タギシ「父上、実は残念ながら、過疎が進んで
2010年(平成22年)を最後に休止しておるのです。」


 サノ「まこっちゃ(本当に)?!」


 タギシ「まこち(本当だよ)!」


 サノ「早く再開してほしいものじゃ。二人の兄上のためにも・・・。」


 タギシ「そうですな。」


 サノ「じゃっどん、ここが二人の兄上の終焉の地になるとは思わなんだ。常世(とこよ)に行ってしまわれるとは・・・。」


 そのとき、剣根の息子、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が解説を始めた。


 ヤマト「常世とは、あの世のことにござりまする。死者が行く理想郷で、黒潮(くろしお)が流れる熊野の海が、常世への入り口だという観念が古くから有りまする。修行者が海の果ての浄土に向かう『補陀落渡海(ふだらくとかい)』が平安時代からおこなわれておりました。」


 剣根(つるぎね)「おい、息子よ。浄土は仏教用語じゃぞ。補陀落も、観音菩薩(かんのんぼさつ)が住むという浄土の名前じゃ。我が君に分かるわけがないであろう!」


 ヤマト「い・・・いやっ、父上、これは読者向けの解説でして・・・。」


 サノ「民衆を浄土へ先導するために、修行者が渡海していたそうじゃな。黒潮に流され、ほぼ間違いなく帰られぬ。まさしく命がけ・・・。」


 剣根(つるぎね)「知っておりましたか・・・。」


 サノ「作者の受け売りじゃ。じゃっどん、仏教が来る前から、熊野は常世につながるという観念があったことは確かぞ。」


 タギシ「父上、それはどういうことです?」


 サノ「国産み神話で有名な伊弉冉神(いざなみのかみ)も熊野に葬られておるのじゃ。」


 大久米(おおくめ)「熊野の有馬村に葬ったと『日本書紀(にほんしょき)』の別伝に書かれてるっす。」


 土地の者「別伝って何です?」


 大久米(おおくめ)「いい質問すね。『日本書紀』は、本文のあとに別の伝承も書いてるんすよ。いわゆる、諸説有りって形で書かれてるんす。」


 土地の者「勉強になったわ。」


 大久米(おおくめ)「三重県熊野市にある、花の窟(いわや)という巨岩が、伊弉冉様の葬られた場所と伝わってます。」


 花の窟と楯ヶ崎
 花の窟2
 花の窟1

 タギシ「それより、父上? 大事なことを忘れておりませぬか?」


 サノ「大事なこと? 何じゃ?」


 タギシ「ここの地名について・・・。」


 サノ「何を言っておる。英虞崎の千畳敷と申したであろう。」


 タギシ「それは二千年後の呼び方にござりまするぞ。わしらが生きていた頃は?」


 サノ「あっ!」


 二千年後の呼び方とは・・・。

 次回に続く。

JW31【神武東征編】EP31 兄たちの挽歌

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 和歌山県(わかやまけん)新宮市(しんぐうし)の神倉山(かみくらさん)と言われている天磐盾(あまのいわたて)に登った、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 神倉山
 神倉山1

 登山の理由を巡り、一行が語り合っていると、地元の民が突然、現れた。


 地元の民「この山ですが・・・再登場するんで・・・よろしく。」


 サノ「だっ・・・誰じゃ!? 名を名乗れっ!」


 地元の民「不器用・・・ですから。」


 サノ「もしや、汝(いまし)も再登場するということか?」


 地元の民「作者から口止めというか・・・不器用・・・ですから。」


 サノ「その不器用という語り方を覚えておけば、良いのじゃな。」


 ここで、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと)がツッコミを入れてきた。


 稲飯(いなひ)「サノ、こいつが何者か気にならんのか?!」


 サノ「いずれ分かりましょうぞ。今、気にしても仕方のないことかと・・・。」


 ミケ「これが、二千年後で言う、ポジティブシンキングか・・・。」


 サノ「そういうことにしてくださりませ。では、次の地に向かおうぞ。出航の準備を致せ。」


 稲飯(いなひ)・ミケ「いやじゃあぁぁぁ!!」×2


 サノ「なして、兄上たちは船が、お嫌いなのです? 武具も食料も運べて便利ではありませぬか。」


 稲飯(いなひ)「何度も嵐に遭って来たんや! こんな恐ろしい乗り物はコリゴリなんや!」


 ミケ「稲飯の兄上の言う通りや。もう陸路でええやろ?」


 サノ「兄上、もう少しの辛抱にござる。堪忍してくださりませ。」


 結局、一行は船で次の目的地に向かったのであったが、二人の兄の嫌な予感は的中してしまう。

 嵐に遭遇したのである。


 兄たちの挽歌

 稲飯(いなひ)「嗚呼、どういうことや?! わしらの祖先は天津神(あまつかみ)なんやぞ! 母上は海神(かいじん)の娘やぞ! それなのに、なして、陸でも海でも、わしらを苦しめるんや?!」


サノ「あ・・・兄上?!」


 ここで、博学の天種子命(ああのたね・のみこと)が解説を始めた。


 天種子(あまのたね)「我が君たち四兄弟の母上は玉依姫(たまよりひめ)にあらしゃいます。『タマちゃん』と呼んでくだされ。その『タマちゃん』の父上が、海の神である大綿津見神(おおわたつみのかみ)にあらしゃいます。」


 サノ「このような時に、解説をしている場合かっ!?」


 天種子(あまのたね)「これが努めゆえ、お許しくだされ!」


稲飯(いなひ)「よし、こうなったら、我が身を捧げるじ! さらばじゃ、サノ! とおぅ!」


叫ぶや否や、稲飯命は剣を抜いて、荒れ狂う海に飛び込んでしまった。


サノ「あ・・・兄上ぇぇ!!」


 ミケ「稲飯の兄上の言う通りっちゃ。母も祖母も海神の娘なんや。それがどうや! なして、荒波を立てて、わしらを溺れさせるんやっ!」


 タギシ「お・・・伯父上?」


 天種子(あまのたね)「実は祖母の豊玉姫(とよたまひめ)も海神の娘にあらしゃいます。『トト姉ちゃん』と呼んでくだされ。その『トト姉ちゃん』と『タマちゃん』は姉妹にあらしゃいます。祖母が姉で、母が妹ということですな。」


 サノ「もう良い。このような時に・・・。」


 ミケ「よしっ! わしも人身御供になるっちゃ! とおっ!」


 まるで引き寄せられるかのように、三毛入野命も海に飛び込んでしまった。


 サノ「なっ!? ど・・・どういうことじゃ?」


 天種子(あまのたね)「ですから『トト姉ちゃん』から見た時、我が君たちは、孫でもあり、甥でもあるという、複雑な家庭環境の中で育ったということにあらしゃいます。」


 サノ「そっちの話ではない! なにゆえ、兄上たちが海に飛び込まれたのかということじゃ!」


 天種子(あまのたね)「そ・・・それは・・・稲飯様もミケ様も、ここで嵐に呑まれたんでしょうな。過酷な嵐だったということを、台本は、自ら身を投げた形で、表してるんやと思います。」


 サノ「それでは、本当は海難事故にあって・・・。」


 天種子(あまのたね)「そういうことでしょうな。」


 サノ「イツセの兄上に続いて、稲飯の兄上と、ミケの兄上まで・・・。これから、どうすれば良いのじゃ・・・。」


 タギシ「父上、しっかりしてくださりませ。父上は君主にあらせられまするぞ。」


 サノ「それは分かっておる。分かっておるが・・・。」


 タギシ「伯父上たちは、大綿津見神の御心を鎮めんがため、その身を犠牲にされたのです。」


 サノ「分かっておる。されど・・・。」


 そこへ、剣根(つるぎね)の息子、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が問いかけてきた。


 ヤマト「そ・・・それよりっ、この嵐はいつまで続くんでしょうか?!」


 タギシ「大綿津見神の御心次第じゃっ! 祈るほかあるまいっ!」


 突然の兄たちとの別れ。

 サノたちの船団は凄まじい嵐の中。

 一体、どうなってしまうのか? 

 次回に続く。

JW30【神武東征編】EP30 天磐盾

カテゴリ:

 名草戸畔(なくさとべ)を討ち果たし、名草の地を平定した狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)と味日命(うましひ・のみこと)が補足説明を始めた。


 天種子(あまのたね)「和歌山県海南市のガイドブックによると、紀の川の河口に大蛇が流れ着いたので、人々は神の化身として頭部、腹部、脚部の三つに分けて、それぞれを神として祀ったという伝説が残ってるみたいですな。」


 三つの神社

 味日(うましひ)「それって、名草戸畔は大蛇だった・・・ってことですか?」


 天種子(あまのたね)「いや、紀の川の河口に流れ着いたっちゅうことは、中(なか)つ国(くに)から来た者やったんやないかと・・・。上流まで遡れば、中つ国やろ?」


 味日(うましひ)「中つ国から派遣されてきた人物の可能性があるってことですね。」


 天種子(あまのたね)「その可能性は捨て切れんやろ。」


 サノ「汝(いまし)らは、何を言っておる。そのようなことはどうでもいいことじゃ。大事なのは、名草戸畔を祀り、後世まで語り継ぐことぞ。」


 ここで、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と天道根命(あまのみちね・のみこと)(以下、ミチネ)が加わってきた。


 稲飯(いなひ)「その通りっちゃ。わしらは、敵対した者も、ちゃんと顕彰し、神様として祀り、同じ家族として、仲間として扱うんや。そうして、国を一つにするんや。」


 ミチネ「では、わしは日像鏡(ひがた・のかがみ)と日矛鏡(ひぼこ・のかがみ)を祀るための神社を建てまする。」


 サノ「うむ。これからも鏡を祀り、守護してもらいたい。頼んだぞ! ミチネ!」


 ミチネ「こ・・・これからもですか?」


 ここで、三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと)(以下、ミケ)も加わってきた。


 ミケ「その通りっ! 汝(いまし)はこのまま、この地に土着し、紀伊国造(きい・のくに・のみやつこ)の祖となるんやじ。」


 ミチネ「えっ?! そ・・・そうなりまするか?」


 ミケ「日前神宮(ひのくまじんぐう)と國懸神宮(くにかかすじんぐう)のこと。よろしく頼むっちゃ。」


 日前神宮
 國懸神宮

 ミチネ「わ・・・分かりもうした。そういうことならば、子々孫々まで、守り続けてみせましょうぞ!」


 稲飯(いなひ)「安心せよ。二千年後も、ミチネの家は、二つの神宮の宮司として勤めてるっちゃ。明治期には、男爵家にもなる名門やじ。二度ほど女系に入れ替わっちょるが、子々孫々という意味では間違っちょらん。」


 ミチネ「安心致しました。これで、心置きなく、お別れができまする。」


 サノ「そうか・・・。ミチネと比古麻(ひこま)とは、ここで別れねばならぬのじゃな。」


 ミチネ「神宝を守護する以上、付いて行くことはできませぬゆえ・・・。これが、異国(とつくに)で言う、くらんくあっぷ、というものらしいですぞ。皆さん、お達者で!」


 比古麻(ひこま)「別れが寂しいというより、もう少し登場したかったというのが本音ですが・・・。」


 サノ「仕方なか。それぞれの務めがあるのじゃ。それでは、我らは再び船路を進もうぞ。」


 それを聞いて、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと)が過敏に反応した。


 稲飯(いなひ)「まだ船で進むんか?」


 サノ「そのつもりにござりまするが・・・。」


 ミケ「騙されたっちゃ!」


 稲飯(いなひ)「なあ、サノ。もう陸路で良かち思うんやが・・・。」


 サノ「奥深い山を徒歩(かち)で進むより、船の方が速いと思いまするが・・・。」


 稲飯(いなひ)・ミケ「いやじゃあぁぁ!!」×2


 こうして、サノたちは、兄たちの要望を無視し、船で次の目的地を目指した。

 そして、狭野(さぬ)を越え、熊野(くまの)の神邑(みわ・のむら)に到着した。


 狭野と神邑

 ここで、小柄な剣根(つるぎね)が説明を始めた。


 剣根(つるぎね)「狭野(さぬ)は、和歌山県(わかやまけん)新宮市(しんぐうし)の佐野(さの)のことにござりまする。」


 狭野1
 狭野2
 狭野3
 狭野
 狭野No.2

 つづいて、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)が説明を始めた。


 タギシ「神邑も新宮市の三輪崎(みわさき)と言われておりまする。」


 佐野三輪崎
 狭野だ

 サノ「で・・・タギシよ。なして、我らは神邑まで来たのじゃ?」


 タギシ「それは、父上が行くと申されたからにござりまする。」


 サノ「それでは、説明になっておらぬではないかっ!」


 ここで、剣根の息子、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が加わった。


 ヤマト「我が君、御安心くだされっ! 我が代わりに説明致しまする。」


 サノ「よし、ヤマト! 任せたぞ!」


 ヤマト「天磐盾(あまのいわたて)に登るためにござる。場所は、新宮市の神倉山(かみくらさん)と言われておりまする。」


 神倉山
 神倉山1
 神倉山2

 サノ「で・・・何のために登ったのじゃ?」


 ヤマト「それは、我が君が登ると言ったから・・・。」


 サノ「説明になっておらぬではないかっ!」


 ミケ「台本には理由も何も書かれてないんやかい(だから)、誰にも答えられないっちゃ。それを知っているのは、サノだけっちゃ。」


 サノ「じゃっどん、ロマンを奪ってはなりませぬ。」


 稲飯(いなひ)「じゃあ、作者の見解だけでも説明するっちゃ。」


 サノ「作者の見解?」


 稲飯(いなひ)「作者は、周防(すおう)の竹島(たけしま)の時と同様、今後の進路を検討するために、山に登ったんやないかと考えちょるみたいやな。まあまあ、いい線いっちょるかもしれんな。」


 タギシ「あくまで答えは言わぬのですか? 父上?」


 サノ「人々からロマンを奪ってはならぬ!」 

 つづく

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