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JW37【神武東征編】EP37 三本足、再び

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 熊野で出会った、饒速日命(にぎはやひ・のみこと)の息子、高倉下(たかくらじ)が、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行に説明を続けていた。


 高倉下(たかくらじ)「あの・・・天磐盾(あまのいわたて)の岩についても、説明がありまして・・・。」


 サノ「では、そちらの解説も頼もうぞ。」


 高倉下(たかくらじ)「岩の名前は『ゴトビキ岩』と言いまする。ゴトビキとは、地元の方言で、ヒキガエルという意味にござりまする。」


 神倉山1
 神倉山2
 ゴトビキ岩
 天磐盾

 サノ「形がヒキガエルに似ておるからか?」


 高倉下(たかくらじ)「よく分かりませぬ。すみませぬ。不器用・・・ですから。」


 サノ「気にせずとも良い。じゃっどん、分かったこともある。岩を祀るという原始信仰から、神々が生まれ、御先祖様と融合していったのじゃ。熊野が大和に組み込まれていく中で、地元の神の名前が、しっかり残っていったのであろうな・・・。」


 高倉下(たかくらじ)「そ・・・そうかもしれませぬな。では、説明も終わったので、私は帰りまする。」


 サノ「御尊父(ごそんぷ)や弟君(おとうとぎみ)に何か、伝えることはないか?」


 高倉下(たかくらじ)「私は・・・熊野に骨を埋(うず)めます・・・と・・・。」


 サノ「あい分かったっ。」


 こうして、高倉下は、言うだけ言って、帰っていったのであった。


 高倉下(たかくらじ)と別れた狭野尊一行は、熊野から中(なか)つ国(くに)を目指し、山中へと足を踏み入れた。

 山中へ

 しかし、山深い土地柄である。

 通れそうな道も見つからず、進むことも退くこともできない状況となってしまった。

 要するに迷子である。


 迷子
 今回の舞台

 サノ「迷子にあらず! 捜索中と言い直せ!」


 ここで、マロ眉の天種子命(あまのたね・のみこと)がツッコミを入れてきた。


 天種子(あまのたね)「いいえ、迷子にあらしゃいます。この期(ご)に及んで、妙な自尊心は捨てるべきやと思いまするが、如何(いか)に?」


 サノ「み・・・認めねばならぬのか・・・。」


 天種子(あまのたね)「どう致します? 戻りますか?」


 サノ「よし、我に策がある。」


 天種子(あまのたね)「それは如何なる?」


 サノ「寝るのじゃ!」


 天種子(あまのたね)「はっ?」


 自暴自棄になったのか、ふて寝したくなったのか、一行は野宿することとなった。

 と言っても、何日も彷徨(さまよ)っているので、もう何度目か・・・という野宿である。


 しかし、今日の野宿は、いつもと違った。

 サノが夢を見たのである。

 夢の中には、あの大御所、天照大神(あまてらすおおみかみ)(以下、アマ)が登場。

 天照大神

 こんなことを言ったとか、言わなかったとか・・・。


 アマ「サノっ! 何をへこたれておるのじゃ。」


 サノ「へこたれてはおりませぬ。それより、夢に出て来たわけをお聞かせくださりませ。」


 アマ「汝(いまし)は今、迷子じゃな?」


 サノ「うっ・・・。これは悪夢にござりまするか?」


 アマ「悪夢ではないぞ。これは吉夢じゃ。そういうことで、先導者を遣わすぞ。その名も、八咫烏(やたがらす)じゃ! 喜べ!」


 サノ「ヤタガラス?」


 アマ「期待しておるのじゃぞ。ではな!」


 サノは、そこで夢から覚めた。

 半信半疑でいると、上空から何かが飛来し、サノの目の前に降り立った。

 何がやって来たのか・・・。

 言うまでもないが、念のために言っておこうと思う。

 八咫烏である。


 八咫烏

 八咫烏(やたがらす)「オッス! オラ、八咫烏っ! いっちょ、やってみっか!」


 サノ「さ・・・三本足の大きなカラス? どこかで見たような?」


 八咫烏(やたがらす)「言うんじゃねえ。言ったら、ぶっ殺すぞ!」


 サノ「あっ! エピソード
14で登場した、ノーギャラと申して、フリップで説明してきたカラスではないか!」


 八咫烏(やたがらす)「言わなくてもいいじゃねえか。」


 サノ「汝(いまし)が先導者なのか?」


 八咫烏(やたがらす)「そうだっ。よろしくなっ。」


 サノ「瑞夢(ずいむ)の通りである。これこそ天照大神の徳が成せる業(わざ)よ。天津日嗣(あまつひつぎ)の大業(たいぎょう)を助けてくださらんとの思(おぼ)し召(め)しであろうか。」


 八咫烏(やたがらす)「急に真面目に台詞言っちまってよお。棒読みに聞こえっぞ!」


 サノ「棒読み・・・ですから。」


 するとそこに、日臣命(ひのおみ・のみこと)がやって来た。


 日臣(ひのおみ)「先導者の三本足っちゃ! やったじ!」


 サノ「驚かぬのか!? なして(なぜ)知っておるのじゃ?」


 日臣(ひのおみ)「紙面の都合っちゃ。というわけで、おいが三本足の導きに従って、道を切り開いていくっちゃ。」


 サノ「なっ? そのようなこと、真に能(あた)うのか?」


 日臣(ひのおみ)「荒事(あらごと)担当、軍事の天才、日臣様とは、おいのことやじっ。」


 サノ「初耳じゃが、まあ良い。汝(いまし)に任せよう。頼んだぞ! 日臣!」


 三本足「ちょっ、オラのあだ名、三本足になってねえか?」


 サノ「そういうことじゃ! 行けい! 三本足よっ!」


 三本足「はいはい。行きゃあいいんだろ。いっちょ、やってみっかぁ。」


 八咫烏の先導で、サノたちは、山中から脱することができるのであろうか。

 次回に続く。

JW36【神武東征編】EP36 高倉下の神社

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前回は三毛入野命(みけいりの・のみこと)のエピソードを紹介させてもらった。
 
 今回から、再び狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行の物語に戻ろうと思う。


 今回の舞台

 一行は、熊野の神による試練を乗り越え、天照大神(あまてらすおおみかみ)や武甕雷神(たけみかづちのかみ)との邂逅を果たした。

 牟婁崎1

 そして今、饒速日命(にぎはやひ・のみこと)の息子、高倉下(たかくらじ)が、説明を始めようとしていた。


 高倉下(たかくらじ)「す・・・すみませぬ。私が祀(まつ)られている神社を紹介してもよろしいでしょうか?」


 サノ「いっちゃが、いっちゃが(いいよ、いいよ)。汝(いまし)は命の恩人ぞ。どんどん紙面を使ってくんない(ください)。」


 高倉下(たかくらじ)「あの・・・和歌山県は新宮市(しんぐうし)に、熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)という神社がありまする。」


 現在地と熊野速玉大社
 熊野速玉大社大域
 熊野速玉大社中域
 熊野速玉大社中域2
 熊野速玉大社小域
 熊野速玉大社小域2
 熊野速玉大社鳥居
 熊野速玉大社

 サノ「そこが、汝(いまし)の祀られておる神社なのじゃな?」


 高倉下(たかくらじ)「いいえ、違いまする。」


 サノ「ん?」


 高倉下(たかくらじ)「そこから・・・ええ、ですから、二千年後で言うと・・・。」


 ここで痺(しび)れを切らした日臣命(ひのおみ・のみこと)が解説を横取りした。


 日臣(ひのおみ)「熊野速玉大社から、南に約
1キロの地点に、神倉山(かみくらさん)という山があるっちゃ。そこに鎮座する、神倉神社(かみくらじんじゃ)のことやじ。」


 熊野速玉大社から神倉神社
 熊野速玉大社と神倉神社

 高倉下(たかくらじ)「そ・・・その通りです。神倉山とは、以前、サノ様が登られた天磐盾(あまのいわたて)のことにござりまする。」


 神倉山1
 神倉山2

 サノ「ああ、あの大きい岩があった山じゃな。」


 天磐盾

 日臣(ひのおみ)「かつては、あの岩を祀ってたみたいっちゃ。じゃっどん、そののち遷座(せんざ)されたそうでして、その折に、高倉下と天照大神が祀られることになったみたいっちゃ。社殿も、その時に建てられたんやじ。」


 天磐盾2

 高倉下(たかくらじ)「そ・・・その通りです。もともとは・・・。」


 日臣(ひのおみ)「そう! もともとは熊野速玉大神(くまのはやたまのおおかみ)と熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)が祀られてたんやじ。」


 サノ「日臣っ! 汝(いまし)が説明するところではなかろう! 高倉下殿に説明させよ!」


 日臣(ひのおみ)「も・・・申し訳ないっちゃ。」


 高倉下(たかくらじ)「で・・・では、説明させていただきまする。熊野速玉大神は伊弉諾尊(いざなぎ・のみこと)と言われておりまする。熊野夫須美大神は伊弉冉尊(いざなみ・のみこと)と言われておりまする。」


 サノ「そんな大御所が祀られておったのに、なして(なぜ)遷座したのじゃ?」


 高倉下(たかくらじ)「すみませぬ。分かりませぬ。不器用・・・ですから。」


 サノ「いっちゃが(いいよ)。仕方なか。それで、移った場所が、今の熊野速玉大社なのじゃな?」


 高倉下(たかくらじ)「そ・・・その通りです。ですから、熊野速玉大社は新宮(しんぐう)、神倉神社は元宮(もとみや)と呼ばれておりまする。」


 神倉神社から熊野速玉大社へ

 ここで目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)が乱入してきた。


 大久米(おおくめ)「ちなみに、遷座された年は、景行天皇(けいこうてんのう)
58年っす。西暦に直すと128年っすよ。」


 サノ「我らの時代より、ずっとあとか。では、我らが来た頃は、岩しかなかったということか?」


 大久米(おおくめ)「その通りっす!」


 サノ「高倉下殿。それでは、汝(いまし)が祀られたのは、
128年から・・・ということで、良いのじゃな?」


 高倉下(たかくらじ)「そ・・・その通りです。不器用・・・ですから。」


 サノ「不器用かどうかは、よく分からぬが、一つだけ分かったことがある。」


 高倉下(たかくらじ)「そ・・・それは、どういうことでしょう?」


 サノ「我らに試練を与えた熊野の神は、伊弉諾尊か伊弉冉尊だったかもしれぬ、ということじゃ。」


 高倉下(たかくらじ)「そ・・・それはどうでしょうか?」


 サノ「なっ?! 違うのか?」


 高倉下(たかくらじ)「く・・・熊野三山(くまのさんざん)と言って、他にも二つの神社がありまする。熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)と熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)がありまして・・・。つ・・・続きは、日臣殿・・・御願い致しまする。」


 日臣(ひのおみ)「御要望に応えて、説明するっちゃ。熊野三山には、先ほどの二柱(ふたはしら)の神様だけでなく、家都美御子大神(けつみみこのおおかみ)という神様も祀られてるっちゃ。こちらの神様は素戔嗚尊(すさのお・のみこと)と言われてるっちゃ!」


 熊野三山

 サノ「結局、汝(いまし)が説明するのか・・・。」


 日臣(ひのおみ)「そんなこつ、言われても・・・。」


 サノ「それでは、あの試練を与えたのは、素戔嗚尊かもしれぬということか? 高倉下殿?」


 高倉下(たかくらじ)「あの・・・いろいろ説がありまして、家都美御子大神は五十猛神(いたけるのかみ)とも、菊理媛神(くくりひめのかみ)とも言われておりまする。熊野夫須美大神についても、熊野櫲樟日命(くまのくすび・のみこと)という説が有りまする。熊野速玉大神についても、速玉男命(はやたまのお・のみこと)という説が有りまする。」


 熊野三山完全版

 サノ「諸説有りか・・・。それでは、まとめて、御先祖様からの試練だったとしておこうぞ。」


 大久米(おおくめ)「ちなみに、五十猛神は、素戔嗚尊の息子。菊理媛神は、北陸地方の白山(はくさん)に祀られてる神。熊野櫲樟日命は、素戔嗚尊が天照大神の勾玉から生み出した神。速玉男神は、伊弉諾尊が黄泉(よみ)の国で生んだ神っす。」


 高倉下(たかくらじ)「あの・・・天磐盾(あまのいわたて)の岩についても、説明がありまして・・・。」


 サノ「では、そちらの解説も頼もうぞ。」


 次回、天磐盾についての解説がおこなわれる。

JW35【神武東征編】EP35 神と神

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 熊野の神の試練を乗り越えた狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)の元に、高倉下(たかくらじ)という男が現れ、更には武甕雷神(たけみかづち・のかみ)(以下、タケミー)と天照大神(あまてらすおおみかみ)(以下、アマ)が現れた。

 今回の舞台
 荒坂津(丹敷浦)

 神々の説明は続く。


 アマ「出雲(いずも)の大国主神(おおくにぬし・のかみ)に国を譲(ゆず)ってもらった時、タケミーを派遣したのじゃが、そのときも、いろいろ抵抗勢力がおったのじゃ。」


 タケミー「まあ、そんな昔のことは・・・。それより、今回の話ですぞ。」


 アマ「そうであったな。そこで、タケミーは、こう言ったのじゃ。」


 タケミー「わしが参らずとも、国譲りの交渉に使った剣を下(くだ)せば、自(おの)ずと平(たい)らかとなりましょう。」


 アマ「諾(うべ)なり。」


 ここで、いきなり日臣命(ひのおみ・のみこと)が説明を始めた。


 日臣(ひのおみ)「諾なり・・・とは、よかろう、という意味っちゃ。」


 サノ「それで、高倉下の夢に現れたと?」


 タケミー「そうじゃ。家の倉に置いておくゆえ、天孫のところに持って行き、献上しろと伝えたのじゃ。」


 高倉下(たかくらじ)「倉の床に、さかさまに立っておりました。」


 サノ「さかさま?」


 タケミー「柄(つか)の部分が下で、刃の方が上になるように置いたのじゃ。」


 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が問いかけた。


 天種子(あまのたね)「なにゆえ、そのようなことを?」


 タケミー「これを見れば、絶対に神の意志が働いていると、馬鹿でも分かるであろう?」


 高倉下「ば・・・馬鹿ですか・・・。」


 タケミー「い・・・いやっ、すまん。そういう意味では・・・。」


 アマ「とりあえず、良かったではないか。狭野! もうひと踏ん張りぞ! 頑張るのじゃぞ!」


 そう言って帰ろうとする二柱(ふたはしら)の神。

 そのとき、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)が質問を投げかけた。


 タギシ「天照様。なにゆえ、高倉下だったのでしょうか?」


 アマ「それを決めたのは、タケミーじゃ。汝(いまし)が説明せよ。」


 タケミー「さ・・・されど『記紀』には書かれておらぬこと。申してよいのかどうか・・・。」


 アマ「許すっ!」


 タギシ「許すっ!」


 タケミー「調子に乗るなよ、タギシ。」


 タギシ「さ・・・作者の陰謀にござる。」


 タケミー「いいだろう。説明しておいてやろう。こやつは、熊野(くまの)の神邑(みわ・のむら)の住民ではない。饒速日(にぎはやひ)の息子じゃ。別名を天香語山(あまのかごやま)と言う。」


 サノ一行「ええぇぇぇぇ!!!!」×11


 高倉下(たかくらじ)「す・・・すみません。不器用・・・ですから。」


 剣根(つるぎね)「饒速日殿の御子息が、敵対する我らを救って良かったのですか?」


 高倉下(たかくらじ)「父は父、それがしはそれがし・・・。お許しくだされ。不器用・・・ですから。」


 サノ「いっちゃが、いっちゃが(いいよ、いいよ)。汝(いまし)は汝ぞ。気にすることはない。」


 高倉下(たかくらじ)「サ・・・サノ様・・・。」


 タケミー「おお、そうじゃ! 他にも伝えておくべきことがあった。」


 サノ「他にも重大な事柄があると?」


 タケミー「熊野で常世(とこよ)に旅立った汝(いまし)の兄のことじゃ。」


 サノ「兄上?」


 タケミー「稲飯(いなひ)は鋤持神(さいもちのかみ)となった。農具の鋤(すき)のような鋭い歯を持つサメの神じゃ。」


 サノ「サ・・・サメ?」


 タケミー「そうじゃ。では、さらばじゃ。」


 サノ「し・・・しばし、しばしお待ちくだされ!」


 タケミー「何じゃ? 申すべきことは、全て申したぞ。」


 サノ「我には、もう一人、兄がおりまする。ミケの兄上にござりまする。ミケの兄上は?」


 タケミー「三毛入野(みけいりの)は生きておるゆえ、まだ神にはなっておらぬ。」


 サノ「なっ!? ミケの兄上は生きておられると?」


 タケミー「じゃが(そうだ)。」


 タギシ「タケミーも高千穂の言葉を?」


 タケミー「一度言ってみたかったんじゃ。それと、天照様以外は、タケミー禁止ぞ!」


 タギシ「す・・・すみませぬっ!」


 サノ「ミ・・・ミケの兄上が生きておられる。」


 タケミー「ミケの話は、異国(とつくに)の言葉でいう、スペシャ・・・じゃない。スパイラ・・・じゃない。スペクタル?」


 このとき、颯爽と日臣命の息子、味日命(うましひ・のみこと)が説明を補足した。


 味日(うましひ)「三毛入野様の物語については、スピンオフにて紹介するっちゃ!」


 タケミー「そうっ! それっ! スピンオフ!」


 こうして二柱の神は高天原(たかまのはら)に帰っていった。

 つづく

JW34【神武東征編】EP34 進撃の巨熊

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 三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯に漂着した、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎2
 英虞崎3

 丹敷浦(にしき・のうら)の豪族、丹敷戸畔(にしきとべ)を討ち取ったところで、突然、熊野の神と名乗る熊が襲撃してきた。

 荒坂津(丹敷浦)

 一行は熊野の神の毒気により、朦朧とするのであった。

ここで筋肉隆々の日臣命(ひのおみ・のみこと)が脂汗を掻きながら説明を始めた。


 日臣(ひのおみ)「ちょっと言わせてほしいっちゃ。みんな、フラフラで、倒れる者も出て来たっちゃ。力が湧いて来ないんやじ。もう、気持ちが悪くて、悪寒まで走る始末っちゃ。そしてついには、眠くなってきたっちゃ。」


 熊野の神「これくらいで、へこたれるのか? サノよ。」


 サノ「ううっ。悔しいが・・・。これでは・・・。」


 熊野の神「神の試練を乗り越えられないようでは、新しき国など作れぬぞっ!」


 すると、そのとき、一人の男が颯爽と駆けつけてきた。

 その男は一振りの剣を手にしている。


 頭椎大刀

 男「お・・・お久しぶりです。この剣、サノ様に献上します。」


 サノ「つ・・・剣? ど・・・どういうことじゃ?」


 男「剣の名前は・・・韴霊(ふつのみたま)。これを渡せと言われました。」


 サノ「ふ・・・韴霊?」


 男「これを持てば、助かると・・・。」


 サノ「わ・・・分かった。持ってみようぞ。」


 言われた通り、サノが剣を手にすると、一瞬にして眠気やら、痺れやら、悪寒やらが消え失せていった。

 周りの者たちも同様に、力を取り戻した。


 サノ「す・・・すごい剣じゃ。これは神宝ではないのか?」


 男「た・・・武甕雷神(たけみかづち・のかみ)の剣です。」


 サノ「おお、そのような霊験あらたかな剣とは・・・。」


 熊野の神「武甕雷が動いたか・・・。」


 サノ「どういうことじゃ!?」


 熊野の神「台本には書いておらぬが、説明してやろう。わしは試練を与えた。本当に新しき国が作れるのかどうか、疑っておったのじゃ。だが、それは杞憂(きゆう)であったようだ。天津神(あまつかみ)の力が汝(いまし)に与えられた。それ、すなわち、汝らが、それだけの苦難を乗り越えてきた証(あかし)ぞ。」


 サノ「乗り越えてきた証?」


 熊野の神「嵐を乗り越え、稲作を伝え、兄を失い、仲間を失い、それでも諦めず、ここまで来た。その苦労の結晶、ほとばしる情熱が天に届いたということよ。天津神を動かせるほどのものになったということじゃ。わしも安心したぞ。では、さらばじゃ。神の子よ。」


 こうして熊野の神は去っていった。

 謎の男を一人残して・・・。

 呆然と立ちすくむ男。

 訝(いぶか)し気な表情の一行。

 一体、この男は何者なのか?


 男「お・・・お久しぶりです。」


 サノ「前にも会ったことがあるようじゃな?」


 男「神邑(みわ・のむら)の天磐盾(あまのいわたて)でお会いしました。」


 狭野1
 狭野だ
 神倉山
 神倉山2
 天磐盾

 サノ「あっ! あの地元の民か?!」


 男「印象が薄くて、すみません。不器用・・・ですから。」


 サノ「それより、汝(いまし)は何者ぞ?」


 男「そ・・・それがしは高倉下(たかくらじ)と申しまする。」


 サノ「高倉下か。本当に助かったぞ。かたじけない。」


 高倉下(たかくらじ)「ただ剣を届けただけ・・・不器用・・・ですから。」


 サノ「じゃっどん、どうしてここが分かったのじゃ?」


 高倉下(たかくらじ)「武甕雷神(たけみかづちのかみ)が、それがしの夢に現れ、剣をサノ様に渡せと・・・。」


 サノ「夢の中に・・・。」


 すると、いきなり雷鳴が轟き、雲間から武甕雷神(たけみかづち・のかみ)(以下、タケミー)が出現した。


 タケミカヅチ

 日臣(ひのおみ)「ちょっと! 台本にはない展開やじ。」


 タケミー「仕方なかろう。高倉下が不器用すぎて、説明が進まんのじゃ。わしが代わって説明をしてやる。」


 サノ一行「ははぁぁぁ。」×11


 タケミー「天照大神(あまてらすおおみかみ)は心配しておった。汝(いまし)のことが気になって仕方がないらしい。まあ、孫みたいなものだからな。」


 サノ「孫と申しますか、玄孫(やしゃご)の子、来孫(らいそん)に当たりまする。」


 タケミー「華麗にスルーさせてもらおう。そして、こう仰った。」


 すると突然、日輪が眩(まばゆ)く輝き始め、天照大神(あまてらすおおみかみ)(以下、アマ)が現れた。


 天照大神

 アマ「葦原中国(あしはらのなかつくに)は、いまなお、さやげりなり。」


 サノ「おお、天照様。お初にお目にかかりまする。狭野にござりまする。」


 アマ「分かっておる。皆、頑張っておるようじゃな。」


 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が喰いついてきた。


 天種子(あまのたね)「ところで、さやげりなり・・・とは、どういう意味にあらしゃいますか?」


 アマ「騒がしいようだ・・・という意味じゃ。そして、タケミーに言ったのじゃ。もう一度、汝(いまし)が征伐して参れとな・・・。」


 それを聞いて、小柄な剣根(つるぎね)が疑問の声を上げた。


 剣根(つるぎね)「もう一度とは、どういうことにござりまするか?」


 アマ「出雲(いずも)の大国主神(おおくにぬし・のかみ)に国を譲(ゆず)ってもらった時、タケミーを派遣したのじゃが、そのときも、いろいろ抵抗勢力がおったのじゃ。」


 タケミー「まあ、そんな昔のことは・・・。それより、今回の話ですぞ。」


 アマ「そうであったな。そこで、タケミーは、こう言ったのじゃ。」


 神々の説明は続く。

 タケミーは何と言ったのであろうか。

 次回に続く。

JW33【神武東征編】EP33 丹敷浦の戦い

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 三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯に漂着した、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎3
 英虞崎楯ヶ崎

 解説は続くのであった。

 まず、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)がサノに語り掛けた。


 タギシ「父上? 大事なことを忘れておりませぬか?」


 サノ「大事なこと? 何じゃ?」


 タギシ「ここの地名について・・・。」


 サノ「何を言っておる。英虞崎の千畳敷と申したであろう。」


 タギシ「それは二千年後の呼び方にござりまするぞ。わしらが生きていた頃は?」


 サノ「あっ!」


 ここで、椎根津彦(しいねつひこ)(以下、
Seesaw)が解説に加わった。


 Seesaw
「さすがは、タギシ様! この地は当時、荒坂津(あらさか・のつ)と言われてたんやに。別名は丹敷浦(にしき・のうら)っちゃ。」×2


 サノ「津・・・ということは、港として使われていたということか?」


 Seesaw
「千畳敷は無理でしょうが、この二木島湾内は、港として適しちょりますな。」×2


 荒坂津(丹敷浦)

 サノ「そういうところには、その地を治める者がおり、部外者が来れば、敏感に察知するものなのじゃ。」


 Seesaw
「そうなんですか?」×2


 サノ「当たり前じゃ。我も高千穂にいる時は、不可思議な輩(やから)が来ては・・・。」


 謎の声「そうそう。不可思議な輩が来たら、武力で追っ払わないとねっ!」


 サノ「だ・・・誰じゃ?! 女の声? 何者ぞ!? 我は追っ払わず、話を聞く方であったぞ。」


 謎の女「聞いて臆(おく)せっ! 見て臆せっ! 我こそが、この地を治める丹敷戸畔(にしきとべ)や!」


 サノ「人の話を聞いておらぬ・・・。」


 ここで筋肉隆々の日臣命(ひのおみ・のみこと)が叫んだ。


 日臣(ひのおみ)「荒坂津は別名が丹敷浦(にしき・のうら)という。そこから付いた名前やなっ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「その通り! 侵入者めっ! その首、貰(もら)い受けるっ!」


 サノ「女ひとりで、我らを討ち取るつもりか? 正気の沙汰とは思えぬな。」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「否(いな)っ! 我一人に非(あら)ずっ! 野郎ども、戦じゃあぁぁ!」


 荒坂津のみなさん「戦じゃあぁぁぁ!!!」×多数


 日臣(ひのおみ)「ちょっと、待ってほしいっちゃ。誤解っちゃ! わしらはただ流されてきただけっちゃ!」


 この状況を見て、サノたちを救助した土地の者たちは逃げ去っていった。

 そして、大軍勢を前にして、タギシが吼える。


 タギシ「こうして我々は、丹敷戸畔を討ち取ったのじゃ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「説明で終わらせるの禁止やっ!」


 タギシ「なっ!? セリフ合わせでは、そうなっていたはず!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「心変わりや! あたいの夢は、舞台の上で、アドリブの花咲かせる女優になることや!」


 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が喚(わめ)き出した。


 天種子(あまのたね)「台本では一行で終わる話なんや! ホンマでっせ。」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「うるさい! 皆の者、かかれえぇぇ!!」


 サノ「その心意気、見事なり! 汝(いまし)をアドリブの女王と認めようぞ! では、アドリブついでに、汝自身の説明も頼もうぞ!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「仕方ないなぁ。説明したるわ。」


 サノ「おお、さすがはアドリブの女神!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「あたいは、和歌山県の串本町(くしもとちょう)から三重県の大紀町(たいきちょう)錦(にしき)までの熊野灘(くまのなだ)沿岸を統治する豪族と考えられているんや。」


 丹敷戸畔の勢力域

 サノ「説明、御苦労であった! クランクアップの挨拶も頼む!」


 丹敷戸畔(にしきとべ)「もう少し活躍したかった。ニシキって呼んでほしかった!」


 荒坂津のみなさん「ニシキィィィ!!!」×多数


 こうして、サノ一行は丹敷戸畔を討ち取ったのであった。


 サノ「立派な女優・・・いやっ、立派な豪族であったな・・・。」


 謎の声「それで、終わったと思っているのか? サノよ。」


 サノ「えっ! つ・・・次は誰じゃ!? 男の声? 次は、アドリブ男優か?!」


 そこに現れたのは、謎の男でもなく、アドリブ男優でもなく、大きな熊であった。


 サノ「熊・・・。熊がしゃべっておるぞ・・・。」


 タギシ「父上、タコでもカメでもしゃべれること、お忘れか?」


 サノ「そ・・・そうか! さ・・・されど、大蛸(おおだこ)は良いとして、亀の一号と二号はしゃべれなかったはず・・・。」


 天種子(あまのたね)「そないなこと考えてる時やあらしませんっ!」


 サノ「わ・・・分かっておる。読者のためじゃ!」


 タギシ「父上、何やら、熊が語り出しましたぞ。」


 大きな熊「貴様が新しき国を作る器(うつわ)かどうか、ここで見極めさせてもらう!」


 サノ「しばし待たれよ。まず、名を名乗ってもらわねば困る。」


 大きな熊「我(われ)は熊野の神なり!」


 日臣(ひのおみ)「えっ?! 熊野の雷(かみなり)?!」


 熊野の神「ここでボケること、禁止する!」


 日臣(ひのおみ)「そんなこと、作者が許さないっちゃ。」


 作者「・・・・・・。」


 日臣(ひのおみ)「えっ!? どういうことっちゃ! 神様には従順なんかっ!」


 熊野の神「そろそろ、わしの毒気が効いてくる頃であろう。」


 サノ「そう言われてみれば、体が痺(しび)れてきたような・・・。」


 突然の熊襲来。

 一行はどうなってしまうのか。

 次回に続く。

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