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JW32【神武東征編】EP32 熊野より愛を込めて

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嵐に遭遇した狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 兄たちの挽歌

 二人の兄も海に身を投げて死亡してしまう。

 もみくちゃにされる船団。

 そして・・・。


 サノ「というわけで、助かったようじゃな?」


 いきなりの主君の質問に小柄な剣根(つるぎね)が答える。


 剣根(つるぎね)「土地の者が船を漕(こ)ぎ、漂流する我々を助けたと伝承が残っているそうですぞ。」


 サノ「そ・・・そうか。かたじけない。それで、ここはどこじゃ?」


 その問いかけには、土地の者が答えた。


 土地の者「三重県熊野市の英虞崎(あごさき)の先端にある千畳敷(せんじょうじき)という、荒波に洗われる奇岩地帯やで。最先端には、高さ
70メートルの柱状節理(ちゅうじょうせつり)の岸壁、楯ケ崎(たてがさき)があるんや。」


 今回の舞台
 英虞崎への道
 英虞崎1
 英虞崎2
 英虞崎3
 英虞崎4

 サノ「柱状節理とは何じゃ?」


 土地の者「柱状節理っちゅうんわ、火山性の玄武岩(げんぶがん)とか安山岩(あんざんがん)に五角形やら六角形の柱のような割れ目が生じてですな、蜂の巣のような形になった岩石の柱が集合したもんですわ。」


 楯ヶ崎

 サノ「よく分からんが、読者には分かったようじゃな。ところで、真向いにも岬があるみたいじゃな。あれは?」


 その問いかけには、目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)が答えた。


 大久米(おおくめ)「真向いの岬は、牟婁崎(むろさき)っす。」


 牟婁崎1

 サノ「それでは、この向かい合った岬に、常世(とこよ)に行ってしまった兄上たちの神社を祀ろうぞ。」


 土地の者「いいね!」


 ここで椎根津彦(しいねつひこ)(以下、
Seesaw)が唐突に説明を始めた。


 Seesaw
「牟婁崎には室古神社(むろこじんじゃ)を建てたっちゃ。稲飯命(いなひ・のみこと)を祀ってるんやに。」×2


 室古神社1
 室古神社2
 室古神社鳥居
 室古神社拝殿

 そしてサノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)が追加説明を始めた。


 タギシ「向かい側の英虞崎には阿古師神社(あこしじんじゃ)を建てもうした。三毛入野命(みけいりの・のみこと)の伯父上を祀っておる。」

 阿古師神社1
 阿古師神社2
 阿古師神社鳥居
 阿古師神社拝殿
 英虞崎楯ヶ崎実写

 Seesaw「この二つの岬に抱かれるように存在するのが二木島湾(にぎしまわん)やに。」×2


 二木島湾
 英虞崎楯ヶ崎

 タギシ「この地域で、毎年十一月、盛大におこなわれていたのが二木島祭(にぎしままつり)じゃ。八丁櫓の関船二艘が両神社に渡船して儀式をおこなうのじゃ。」


 二木島祭1
 二木島祭2

 Seesaw
「白木綿(しろもめん)の胴巻きを締めた男衆による勇壮な船漕ぎ競争が見せ場っちゃ。漂流する我々を救った時の様子を再現したものやに。」×2


 サノ「タギシよ。盛大におこなわれていた・・・ということは、今は小規模ということか?」


 タギシ「父上、実は残念ながら、過疎が進んで
2010年(平成22年)を最後に休止しておるのです。」


 サノ「まこっちゃ(本当に)?!」


 タギシ「まこち(本当だよ)!」


 サノ「早く再開してほしいものじゃ。二人の兄上のためにも・・・。」


 タギシ「そうですな。」


 サノ「じゃっどん、ここが二人の兄上の終焉の地になるとは思わなんだ。常世(とこよ)に行ってしまわれるとは・・・。」


 そのとき、剣根の息子、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が解説を始めた。


 ヤマト「常世とは、あの世のことにござりまする。死者が行く理想郷で、黒潮(くろしお)が流れる熊野の海が、常世への入り口だという観念が古くから有りまする。修行者が海の果ての浄土に向かう『補陀落渡海(ふだらくとかい)』が平安時代からおこなわれておりました。」


 剣根(つるぎね)「おい、息子よ。浄土は仏教用語じゃぞ。補陀落も、観音菩薩(かんのんぼさつ)が住むという浄土の名前じゃ。我が君に分かるわけがないであろう!」


 ヤマト「い・・・いやっ、父上、これは読者向けの解説でして・・・。」


 サノ「民衆を浄土へ先導するために、修行者が渡海していたそうじゃな。黒潮に流され、ほぼ間違いなく帰られぬ。まさしく命がけ・・・。」


 剣根(つるぎね)「知っておりましたか・・・。」


 サノ「作者の受け売りじゃ。じゃっどん、仏教が来る前から、熊野は常世につながるという観念があったことは確かぞ。」


 タギシ「父上、それはどういうことです?」


 サノ「国産み神話で有名な伊弉冉神(いざなみのかみ)も熊野に葬られておるのじゃ。」


 大久米(おおくめ)「熊野の有馬村に葬ったと『日本書紀(にほんしょき)』の別伝に書かれてるっす。」


 土地の者「別伝って何です?」


 大久米(おおくめ)「いい質問すね。『日本書紀』は、本文のあとに別の伝承も書いてるんすよ。いわゆる、諸説有りって形で書かれてるんす。」


 土地の者「勉強になったわ。」


 大久米(おおくめ)「三重県熊野市にある、花の窟(いわや)という巨岩が、伊弉冉様の葬られた場所と伝わってます。」


 花の窟と楯ヶ崎
 花の窟2
 花の窟1

 タギシ「それより、父上? 大事なことを忘れておりませぬか?」


 サノ「大事なこと? 何じゃ?」


 タギシ「ここの地名について・・・。」


 サノ「何を言っておる。英虞崎の千畳敷と申したであろう。」


 タギシ「それは二千年後の呼び方にござりまするぞ。わしらが生きていた頃は?」


 サノ「あっ!」


 二千年後の呼び方とは・・・。

 次回に続く。

JW31【神武東征編】EP31 兄たちの挽歌

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 和歌山県(わかやまけん)新宮市(しんぐうし)の神倉山(かみくらさん)と言われている天磐盾(あまのいわたて)に登った、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 今回の舞台
 神倉山
 神倉山1

 登山の理由を巡り、一行が語り合っていると、地元の民が突然、現れた。


 地元の民「この山ですが・・・再登場するんで・・・よろしく。」


 サノ「だっ・・・誰じゃ!? 名を名乗れっ!」


 地元の民「不器用・・・ですから。」


 サノ「もしや、汝(いまし)も再登場するということか?」


 地元の民「作者から口止めというか・・・不器用・・・ですから。」


 サノ「その不器用という語り方を覚えておけば、良いのじゃな。」


 ここで、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと)がツッコミを入れてきた。


 稲飯(いなひ)「サノ、こいつが何者か気にならんのか?!」


 サノ「いずれ分かりましょうぞ。今、気にしても仕方のないことかと・・・。」


 ミケ「これが、二千年後で言う、ポジティブシンキングか・・・。」


 サノ「そういうことにしてくださりませ。では、次の地に向かおうぞ。出航の準備を致せ。」


 稲飯(いなひ)・ミケ「いやじゃあぁぁぁ!!」×2


 サノ「なして、兄上たちは船が、お嫌いなのです? 武具も食料も運べて便利ではありませぬか。」


 稲飯(いなひ)「何度も嵐に遭って来たんや! こんな恐ろしい乗り物はコリゴリなんや!」


 ミケ「稲飯の兄上の言う通りや。もう陸路でええやろ?」


 サノ「兄上、もう少しの辛抱にござる。堪忍してくださりませ。」


 結局、一行は船で次の目的地に向かったのであったが、二人の兄の嫌な予感は的中してしまう。

 嵐に遭遇したのである。


 兄たちの挽歌

 稲飯(いなひ)「嗚呼、どういうことや?! わしらの祖先は天津神(あまつかみ)なんやぞ! 母上は海神(かいじん)の娘やぞ! それなのに、なして、陸でも海でも、わしらを苦しめるんや?!」


サノ「あ・・・兄上?!」


 ここで、博学の天種子命(ああのたね・のみこと)が解説を始めた。


 天種子(あまのたね)「我が君たち四兄弟の母上は玉依姫(たまよりひめ)にあらしゃいます。『タマちゃん』と呼んでくだされ。その『タマちゃん』の父上が、海の神である大綿津見神(おおわたつみのかみ)にあらしゃいます。」


 サノ「このような時に、解説をしている場合かっ!?」


 天種子(あまのたね)「これが努めゆえ、お許しくだされ!」


稲飯(いなひ)「よし、こうなったら、我が身を捧げるじ! さらばじゃ、サノ! とおぅ!」


叫ぶや否や、稲飯命は剣を抜いて、荒れ狂う海に飛び込んでしまった。


サノ「あ・・・兄上ぇぇ!!」


 ミケ「稲飯の兄上の言う通りっちゃ。母も祖母も海神の娘なんや。それがどうや! なして、荒波を立てて、わしらを溺れさせるんやっ!」


 タギシ「お・・・伯父上?」


 天種子(あまのたね)「実は祖母の豊玉姫(とよたまひめ)も海神の娘にあらしゃいます。『トト姉ちゃん』と呼んでくだされ。その『トト姉ちゃん』と『タマちゃん』は姉妹にあらしゃいます。祖母が姉で、母が妹ということですな。」


 サノ「もう良い。このような時に・・・。」


 ミケ「よしっ! わしも人身御供になるっちゃ! とおっ!」


 まるで引き寄せられるかのように、三毛入野命も海に飛び込んでしまった。


 サノ「なっ!? ど・・・どういうことじゃ?」


 天種子(あまのたね)「ですから『トト姉ちゃん』から見た時、我が君たちは、孫でもあり、甥でもあるという、複雑な家庭環境の中で育ったということにあらしゃいます。」


 サノ「そっちの話ではない! なにゆえ、兄上たちが海に飛び込まれたのかということじゃ!」


 天種子(あまのたね)「そ・・・それは・・・稲飯様もミケ様も、ここで嵐に呑まれたんでしょうな。過酷な嵐だったということを、台本は、自ら身を投げた形で、表してるんやと思います。」


 サノ「それでは、本当は海難事故にあって・・・。」


 天種子(あまのたね)「そういうことでしょうな。」


 サノ「イツセの兄上に続いて、稲飯の兄上と、ミケの兄上まで・・・。これから、どうすれば良いのじゃ・・・。」


 タギシ「父上、しっかりしてくださりませ。父上は君主にあらせられまするぞ。」


 サノ「それは分かっておる。分かっておるが・・・。」


 タギシ「伯父上たちは、大綿津見神の御心を鎮めんがため、その身を犠牲にされたのです。」


 サノ「分かっておる。されど・・・。」


 そこへ、剣根(つるぎね)の息子、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が問いかけてきた。


 ヤマト「そ・・・それよりっ、この嵐はいつまで続くんでしょうか?!」


 タギシ「大綿津見神の御心次第じゃっ! 祈るほかあるまいっ!」


 突然の兄たちとの別れ。

 サノたちの船団は凄まじい嵐の中。

 一体、どうなってしまうのか? 

 次回に続く。

JW30【神武東征編】EP30 天磐盾

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 名草戸畔(なくさとべ)を討ち果たし、名草の地を平定した狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 ここで、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)と味日命(うましひ・のみこと)が補足説明を始めた。


 天種子(あまのたね)「和歌山県海南市のガイドブックによると、紀の川の河口に大蛇が流れ着いたので、人々は神の化身として頭部、腹部、脚部の三つに分けて、それぞれを神として祀ったという伝説が残ってるみたいですな。」


 三つの神社

 味日(うましひ)「それって、名草戸畔は大蛇だった・・・ってことですか?」


 天種子(あまのたね)「いや、紀の川の河口に流れ着いたっちゅうことは、中(なか)つ国(くに)から来た者やったんやないかと・・・。上流まで遡れば、中つ国やろ?」


 味日(うましひ)「中つ国から派遣されてきた人物の可能性があるってことですね。」


 天種子(あまのたね)「その可能性は捨て切れんやろ。」


 サノ「汝(いまし)らは、何を言っておる。そのようなことはどうでもいいことじゃ。大事なのは、名草戸畔を祀り、後世まで語り継ぐことぞ。」


 ここで、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と天道根命(あまのみちね・のみこと)(以下、ミチネ)が加わってきた。


 稲飯(いなひ)「その通りっちゃ。わしらは、敵対した者も、ちゃんと顕彰し、神様として祀り、同じ家族として、仲間として扱うんや。そうして、国を一つにするんや。」


 ミチネ「では、わしは日像鏡(ひがた・のかがみ)と日矛鏡(ひぼこ・のかがみ)を祀るための神社を建てまする。」


 サノ「うむ。これからも鏡を祀り、守護してもらいたい。頼んだぞ! ミチネ!」


 ミチネ「こ・・・これからもですか?」


 ここで、三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと)(以下、ミケ)も加わってきた。


 ミケ「その通りっ! 汝(いまし)はこのまま、この地に土着し、紀伊国造(きい・のくに・のみやつこ)の祖となるんやじ。」


 ミチネ「えっ?! そ・・・そうなりまするか?」


 ミケ「日前神宮(ひのくまじんぐう)と國懸神宮(くにかかすじんぐう)のこと。よろしく頼むっちゃ。」


 日前神宮
 國懸神宮

 ミチネ「わ・・・分かりもうした。そういうことならば、子々孫々まで、守り続けてみせましょうぞ!」


 稲飯(いなひ)「安心せよ。二千年後も、ミチネの家は、二つの神宮の宮司として勤めてるっちゃ。明治期には、男爵家にもなる名門やじ。二度ほど女系に入れ替わっちょるが、子々孫々という意味では間違っちょらん。」


 ミチネ「安心致しました。これで、心置きなく、お別れができまする。」


 サノ「そうか・・・。ミチネと比古麻(ひこま)とは、ここで別れねばならぬのじゃな。」


 ミチネ「神宝を守護する以上、付いて行くことはできませぬゆえ・・・。これが、異国(とつくに)で言う、くらんくあっぷ、というものらしいですぞ。皆さん、お達者で!」


 比古麻(ひこま)「別れが寂しいというより、もう少し登場したかったというのが本音ですが・・・。」


 サノ「仕方なか。それぞれの務めがあるのじゃ。それでは、我らは再び船路を進もうぞ。」


 それを聞いて、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと)が過敏に反応した。


 稲飯(いなひ)「まだ船で進むんか?」


 サノ「そのつもりにござりまするが・・・。」


 ミケ「騙されたっちゃ!」


 稲飯(いなひ)「なあ、サノ。もう陸路で良かち思うんやが・・・。」


 サノ「奥深い山を徒歩(かち)で進むより、船の方が速いと思いまするが・・・。」


 稲飯(いなひ)・ミケ「いやじゃあぁぁ!!」×2


 こうして、サノたちは、兄たちの要望を無視し、船で次の目的地を目指した。

 そして、狭野(さぬ)を越え、熊野(くまの)の神邑(みわ・のむら)に到着した。


 狭野と神邑

 ここで、小柄な剣根(つるぎね)が説明を始めた。


 剣根(つるぎね)「狭野(さぬ)は、和歌山県(わかやまけん)新宮市(しんぐうし)の佐野(さの)のことにござりまする。」


 狭野1
 狭野2
 狭野3
 狭野
 狭野No.2

 つづいて、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)が説明を始めた。


 タギシ「神邑も新宮市の三輪崎(みわさき)と言われておりまする。」


 佐野三輪崎
 狭野だ

 サノ「で・・・タギシよ。なして、我らは神邑まで来たのじゃ?」


 タギシ「それは、父上が行くと申されたからにござりまする。」


 サノ「それでは、説明になっておらぬではないかっ!」


 ここで、剣根の息子、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が加わった。


 ヤマト「我が君、御安心くだされっ! 我が代わりに説明致しまする。」


 サノ「よし、ヤマト! 任せたぞ!」


 ヤマト「天磐盾(あまのいわたて)に登るためにござる。場所は、新宮市の神倉山(かみくらさん)と言われておりまする。」


 神倉山
 神倉山1
 神倉山2

 サノ「で・・・何のために登ったのじゃ?」


 ヤマト「それは、我が君が登ると言ったから・・・。」


 サノ「説明になっておらぬではないかっ!」


 ミケ「台本には理由も何も書かれてないんやかい(だから)、誰にも答えられないっちゃ。それを知っているのは、サノだけっちゃ。」


 サノ「じゃっどん、ロマンを奪ってはなりませぬ。」


 稲飯(いなひ)「じゃあ、作者の見解だけでも説明するっちゃ。」


 サノ「作者の見解?」


 稲飯(いなひ)「作者は、周防(すおう)の竹島(たけしま)の時と同様、今後の進路を検討するために、山に登ったんやないかと考えちょるみたいやな。まあまあ、いい線いっちょるかもしれんな。」


 タギシ「あくまで答えは言わぬのですか? 父上?」


 サノ「人々からロマンを奪ってはならぬ!」 

 つづく

JW29【神武東征編】EP29 名草の英雄

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天道根命(あまのみちね・のみこと)(以下、ミチネ)が言う、同じ場所に二柱(ふたはしら)の神を祀るとは、一体どういうことなのか?

 今回の舞台

 ミチネの説明は続く。


 ミチネ「同じ場所に、二つの神社があるということですな。」


 質問をした大久米命(おおくめ・のみこと)が驚嘆の声を上げる。


 大久米(おおくめ)「えっ! 合祀じゃなくて、あくまで別々の神社が同じ場所にあるってことっすか?」


 ミチネ「そういうことになりますな。ちなみに、二千年後も同じ場所に立っておりまする。」


 そこに、ミチネの息子、比古麻(ひこま)と日臣命(ひのおみ・のみこと)の息子、味日命(うましひ・のみこと)が補足説明を始めた。


 比古麻(ひこま)「総称して、日前宮(にちぜんぐう)と呼ばれておりまする。」


 味日(うましひ)「名草宮(なくさぐう)とも呼ばれてるみたいやじ。」


 日前宮1
 日前宮2
 日前神宮と國懸神宮
 日前宮3
 日前宮4
 日前宮5
 日前宮鳥居
 日前神宮
 國懸神宮
 
 ミチネ「さすがは味日! ちなみに、正式に神社が創建されたのは、我が君が、天皇(すめらみこと)になった翌年の紀元前
659年のことと伝わっておりまする。」


 ここで本編の主人公、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)が疑問を投げかけてきた。


 サノ「ところで、どうして秋月(あきづき)が最適な地なのじゃ? 美しい地ではあると思うが、名草戸畔(なくさとべ)という、女の族長が支配している土地ではないか。彼らによって、破壊される可能性がある土地ぞ。それに、上陸した琴の浦よりも、以前紹介した水門吹上神社や竈山神社の方が近いではないか。」


 日前宮1

 ミチネ「彦五瀬命(ひこいつせ・のみこと)(以下、イツセ)の死亡関連で紹介したため、前後致しましたが、我らは、琴の浦に上陸したあと、竈山に向かい、イツセ様を葬ったのではないかと考えておりまする。」


 サノ「では、イツセの兄上は水門吹上神社で亡くなられ、我らが琴の浦から上陸した後、竈山に葬ったというわけか・・・。」


 秋月

 比古麻(ひこま)「まあ、竈山の件はともかく、秋月という地は、重要な地域なのです。」


 サノ「重要とは、如何なることじゃ。」


 比古麻(ひこま)「紀の川は物資を運ぶ上で、重要な交通の要衝なのです。その河口付近を抑えておきたいという政治的理由もあって、ここを選んだのです。」


 サノ「されど、名草戸畔が、それを許さないのでは?」


 そのとき、件(くだん)の女人の笑い声が再び響いてきた。


 名草戸畔(なくさとべ)「その通りっ! あたいたちは許さないよ。さっさと帰りな!」


 サノ「名草戸畔っ! 汝(いまし)は勘違いしているだけじゃ!」


 名草戸畔(なくさとべ)「問答無用! 皆の者、攻めかかれっ!」


 再度、攻めてくる名草軍。

 ついに天孫軍と大がかりな戦闘となってしまった。

 しかし、今度は船から下りた状態の天孫軍である。

 名草軍を打ち破り、追撃を開始した。

 そして結局、名草戸畔は高倉山(たかくらやま)の麓まで追い詰められ、討ち取られたのであった。


 高倉山へ

 頃合いを見計らって、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が説明を始めた。


 天種子(あまのたね)「高倉山は現在の和歌山県(わかやまけん)海南市(かいなんし)に所属する土地にあらしゃいます。」


 神宮と高倉山
 高倉山1
 高倉山2

 この説明を聞き流し、サノが雄叫びを上げた。


 サノ「名草の者たちよ! 我らは戦いに来たのではない。一つの国を作り、皆が豊かに暮らせる世にするため、この地を訪れたのじゃ。よって、これからも名草の者たちで治めてほしい!」


 名草の民「戸畔(とべ)ちゃんが死んだんやで。弔い合戦するのが道理やろうがっ!」


 サノ「確かに、それが道理じゃ。弔いはせねばならぬ。彼女を神として祀ろうぞ。それで許してはくれぬか?」


 名草の民「そこまで言うんやったら、考えてあげてもええで。」


 こうして、名草の英雄、名草戸畔は神様として祀られることとなった。

 ところが、話は順調に進まなかった。

 名草の者たちが鎮座地の選定で諍(いさか)いを起こしたのである。


 海南市小野田(かいなんし・おのだ)の民「高倉山の麓で亡くなったんや。ここに祀るんが道理やろっ!」


 海南市阪井(かいなんし・さかい)の民「何言うてんねん。わしらが一番忠義が厚かったんや。わしらのところに祀るんが道理やろっ!」


 海南市重根(かいなんし・しげね)の民「はいはい。わしらのところで決定やな。」


 サノ「よし、こうなったら三つに分割するしかない。」


 名草の民「三つに分割?!」×多数


 サノ「討たれた地の小野田は首(みしるし)を祀れ。阪井は胴体を祀れ。重根は下半身を祀れ。これでどうじゃ!」


 名草の民「いいね!」×多数


 サノの提案だったのかどうかは不明であるが、名草戸畔を三つに分けて祀ることになった。

 三つの詳細は下記の通り。


 

 頭・・宇賀部神社(うがべじんじゃ)
     ・・・海南市小野田・・・通称「おこべさん」


 胴・・杉尾神社(すぎおじんじゃ)
     ・・・海南市阪井・・・通称「おはらさん」


 足・・千種神社(ちぐさじんじゃ)
     ・・・海南市重根・・・通称「あしがみさん」


 頭と胴体
 足の神社
 三つの神社

 サノ「名草戸畔は、地元で人気があったのじゃな・・・。」


 こうして名草戸畔は三つの神社に祀られ、名草の人々も、サノたちに従ったのであった。


 つづく

JW28【神武東征編】EP28 琴の浦の戦い

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長兄の彦五瀬命(ひこいつせ・のみこと)を失った、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。

 悲しみに暮れる中、二つの鏡を鎮座する候補地を目指していた。


 今回の舞台

 サノ「兄上がいない・・・。まだ実感が湧かぬ・・・。」


 そこに、おじいちゃんキャラの天道根命(あまのみちね・のみこと)(以下、ミチネ)がやって来た。


 ミチネ「お気持ち、御察しもうしまするが、神宝を鎮座させる土地の検分、忘れてもらっては困りまするぞ。」


 サノ「忘れてはおらぬ。ただ、気持ちが乗らぬ。」


 ミチネ「それでも検分はしていただかなければ・・・。そろそろ到着いたしますぞ。紀元前
663623日のことにござりまする。」


 そのとき、次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと。以下、ミケ)が歓喜の声を上げた。


 ミケ「やった! やっと陸地っちゃ。もう船路はコリゴリっちゃ。」


 稲飯(いなひ)「そうやじ。船に乗るなんて、もうたくさんやじ。」


 サノ「兄上! 何を言われまするか! 船での移動に文句を言ってはなりませぬ。漕ぎ手の者たちに失礼ですぞ!」


 稲飯(いなひ)・ミケ「さすがは、我が弟よ!」×2


 ミチネ「見えて参りましたぞ。木国(き・のくに)の毛見郷(けみ・のさと)にござりまする。二千年後の和歌山市毛見ですな。では、あちらの海岸に向かいましょう。『毛見ノ浜(けみのはま)』にござりまする。二千年後で言う『浜の宮海岸』ですな。」


 毛見郷
 浜の宮海岸1
 浜の宮海岸

 サノ「ここに鎮座させると?」


 ミチネ「いえ、ここから内陸部に進んだところに、二千年後で言うと和歌山市(わかやまし)秋月(あきづき)というところがあるのですが、そこに鎮座させようと思っておりまする。」


 秋月へ

 サノ「あい分かった。では、あの入り江に船団を停泊させようぞ。」


 こうして一行が入り江に停泊しようとしていた時、突然、目の前に軍勢が現れた。

 軍勢

 その先頭に立つのは、甲冑を身にまとった女人であった。


 サノ「な・・・何者じゃ!」


 稲飯(いなひ)「もしや長髄彦(ながすねひこ)の軍勢ではないか?!」


 女人「残念でした。あたいは名草戸畔(なくさとべ)。この名草邑(なくさ・のむら)を治める者よ。侵略者は許さないっ。死ねっ!」


 ミケ「な・・なんか勘違いされてるんやないか?」


 そのとき、博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が説明を始めた。


 天種子(あまのたね)「入り江はのちに『事の起こりの浦』という意味から、『琴の浦』と呼ばれるようになったそうや。」


 琴の浦風景

 稲飯(いなひ)「そんなこと言ってる場合かっ!」


 名草戸畔(なくさとべ)「説明をする暇があると思っているのかっ?! 死ねぇ!」


 軍勢が襲い掛かってきたので、一行は再び海に向かって逃げることにした。

 急いで岸辺から離れていく船団。

 それを見て、名草戸畔は大声で笑い出した。


 名草戸畔(なくさとべ)「皆の者、これで安心じゃ。侵略者はいなくなったぞ。」


 意気揚々と帰っていく名草軍。

 それを船からじっと見ている一行。

 そのとき、天道根命が雄叫びを上げた。


 ミチネ「我が君っ。今ですぞぉ! 今こそ上陸ですぞ!」


 サノ「なっ?! 上陸せよと申すか?」


 ミチネ「我らが戻って来るとは、奴らも思ってはおらぬはず・・・。」


 サノ「た・・・確かに・・・。よし、上陸せよ!」


 一行の船団は再び上陸を開始。

 名草戸畔は、まさか再上陸してくるとは思っていなかったのであろう。

 今度は攻めかかってこなかった。


 そのとき、またしても天種子命が説明を始めた。


 天種子(あまのたね)「出て行くように見せかけて、船尾から着岸したことから、この地は船尾(ふのお)と呼ばれるようになったそうや。今の和歌山県(わかやまけん)海南市(かいなんし)の地名にあらしゃいます。」


 琴の浦

 サノ「とにかく上陸できたな。」


 ミチネ「そうですな。」


 サノ「ところで、神社の名前は決めておるのか?」


 ミチネ「さすがは我が君。話が早い。日像鏡(ひがた・のかがみ)の方は日前神宮(ひのくまじんぐう)と申しまする!」


 サノ「別々に祀るということか・・・。」


 ミチネ「はい。そして、日矛鏡(ひぼこ・のかがみ)の方は國懸神宮(くにかかすじんぐう)と申しまする。」


 ここで、目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)がツッコミを入れてきた。


 大久米(おおくめ)「ちょっと待ってくださいよ。二つ別々ってことは、どっちを秋月に祀ったんすか?」


 ミチネ「どちらも同じ場所に祀ったのじゃ。」


 ミチネの言う同じ場所とは、一体どういうことなのか? 

 次回に続く。

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